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■ 疵。
―疵―
口という名の蛇口から出る言葉の水は、カルキ臭くて飲めた物じゃあない。長い間使用せずに放っておいたものだから、とうに錆びてしまっていたのだ。 見た目で判断出来る程に、濁り切った言葉を私の正面に只ずっと座って黙っている父はどう消化しているのだろうか。 どうせ私に似て、その言葉も胃の中で暴れまくっているに違いないと、ひとつひとつ畳の目を数えて俯いていた顔を上げ、ふと考えた。 昔から、言葉で何かを表現するというのは苦手だったから。 だからこの言葉は、きっと父とは周波数が合わなくて、雑音交じりにしか受信されていないのだと思った。 なのに、 「もう、話す事は有りませんので」 と、他人行儀に言われた事が悲しくて。悔しくもひとつ、真新しい碧い畳の上にじんわりと歪な染みを作った。 噛み締めた唇が、痛かった。
2002年02月17日(日)
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