水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。


2003年04月30日(水) 恩田陸『新・ D坂の殺人事件』

明智小五郎が登場する江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」と関係あるのかと
思ったら・・んー、、、ん?・・でした。。 ちょっと、肩透かし。。。

D坂って、道玄坂みたいですね。その事件は渋谷の雑踏の中で起きます。
夜7時前、多くの人が行き交う道で、突然降ってきたかのように現れた死体。
溢れるくらいの人がいたのに、犯行を目撃した人はいない不思議。
そして、偶然、その場に居合わせた元判事の関根と男の推理は──。

あくまで想像の範囲なところが、なんだかもどかしいですー!!
関根の語り口には説得力があって、そっか〜、そうかもしれないですね、と
頷いてしまいますが・・。う〜ん、なんというか、、で、正解は?正解は?
そそ、真実と言うより、正解を知りたい気分なのです。

何気ない日常のひとこまが殺人につながることもあると考えるとゾッとします。
渋谷の喧騒がわいてくるような描写はすごい・・。


2003年04月25日(金) 恩田陸『曜変天目の夜』

すっきりしたカバーデザイン(中原達治)が、どことなくFranc franc を連想させる
恩田陸の「象と耳鳴り」(祥伝社文庫)を読み始めました。12編の短編集です。
この本を読みながらゴールデンウィークを過ごすことになりそうです。読むのは
速いと言われるんですが、余韻に浸っていたいので、一日一話が適量なんです。笑

『曜変天目の夜』─ 国宝の茶碗が公開されている美術館で、関根多佳雄は倒れた
老婦人が目の前を運び出されていくのを見て、自分が何かを思い出しかけていると
いう予感に襲われます。天目茶碗が記憶の彼方から連れて来たのは、10年前に謎
の死を遂げた老司法学者のこと。
その死の真相は……。というお話。関根多佳雄は、デビュー作「六番目の小夜子」に
登場した関根秋の父で、裁判官を退職して今は悠々自適の生活という設定のようです。

連想に次ぐ連想で真相に迫りながら結論は出さないあたり、この茶碗の深遠さを感じます。
ロジックで詰めているはずが、いつの間にか心地良い叙情的雰囲気に。
──きょうは、ようへんてんもくのよるだ。・・か、カッコいい!!


ふと、恩田陸の『ある映画の記憶』(「大密室」収録、新潮文庫、2002.02.15記)を思い
出しました。幼い頃に見た映画の記憶から叔母の死の謎を解いていく新しい密室も
ので、すっごく良かったです。


2003年04月21日(月) 浅田次郎『薔薇盗人』

「薔薇盗人」(新潮文庫)の表題作。良かったです〜♪

豪華客船の船長である父へ宛てた少年の手紙形式で物語は始まります。父の大切な
薔薇を守る少年が綴る日常の出来事 ─ それは、学校のことや近所のこと、初めて
の恋人のことや母のことだったりするのですが、少年が自分の誠実さを父に見せよ
うと、ありのままに書けば書くほど、その手紙には母の背徳の影が映し出されてい
きます。

父の呼び方をダディ、キャプテンと的確に使い分け、いろいろな出来事に自分の考
察を添える聡明な少年なら、もしかして、母のことをも知っていたのではないか、
と思わずにはいられません。
この手紙を読む父は・・やりきれないでしょう。

そして、近所に現れる花泥棒の正体は ──。
ラスト2行に、グッときます。父が大切にする薔薇は母でもあると、少年は知っているんですね。
どこか心惹かれるタイトルと共に、深い余韻に包まれる作品です。



2003年04月19日(土) 浅田次郎『ひなまつり』

桜が散ってしまいました。
何か、失ったものがあるようで、心細く、こんなときに読んだからか、いえ、季節
は関係なく、泣きたくなるような気持ちなのです。

『ひなまつり』 ─ 父の顔を知らない少女が、夜の勤めをする母を心配しながら、
独りで留守番をしています。少女漫画の付録のおひなさまを作っていると、以前隣
に住んでいた男の人が訪ねてきて……。

「東洋の魔女」「東京オリンピック」の昭和の頃、という時代設定が、ストーリー
を際立たせて、少女の孤独とひたむきな想いが真っすぐに伝わってきました。
死んだ祖母が言っていた言葉を深く心に刻む少女がほしいのは「お父さん」。
勇気を振り絞って、少女が口にした言葉に泣けてきます。。

ぜひぜひ、読んでみて下さい。家族の欠落をモチーフにした作品が多い浅田次郎な
らではの、安心して浸れるせつなさです。せ、せつない・・。


2003年04月13日(日) 浅田次郎『佳人』

せつなさに浸りたくて、浅田次郎の短編集、「薔薇盗人」(新潮文庫)を読んでお
ります。なのに、なのに、わたしの求めるものは遠ざかるばかりのようで、昨日の
「奈落」に続いて、今日の「佳人」も、せつなさは見えず・・。んーー、『佳人』
は、どんな話 ? って聞かれたら、よくわからない話、って即答しそうです。

一流大学を卒業した商社マン、身長1m80cm、性格は明朗闊達、語学は堪能 ─ 社
内で将来を嘱望されている男が独身の訳は……。

・・あまり面白くないような・・(もじもじ)。まわりを見ても、38歳で独身の人
なんて、珍しくないし・・。
わたしが子どもの頃は、38歳なんて、ものすごくオジサンでしたけど、、、。
最近、でもないけど、独身の人、多いですよね〜。なぜ、結婚しないの?なんて、誰も訊かないです。
自分のことでイッパイ×イッパイ。
だからかな・・正直、今いちピンとこないんです。読みながら、どう反応したらいいのか・・。

あぁ、せつないお話を読みたいぃぃ〜。ええいああ〜。。急に一青窈を聴きたくなりました。。


2003年04月12日(土) 浅田次郎『奈落』

箱のないエレベーターに足を踏み入れ、転落死した課長代理のお通夜から始まるお
話です。こ、怖いです〜。確か、5、6年くらい前に実際ありました・・よね・・新
聞で読んだ記憶があります。エレベーターが到着していないのに、外扉があき、乗
り込んだサラリーマンが、そのまま転落。。。
あれから、エレベーターに乗るときは、箱があることをちゃんと確認してから乗る
ようにしているんです。

『奈落』は、すべて会話だけで進みます。たたみかけるように進む会話がミステリ
アスな雰囲気をつくっていくうちに、「自殺説」を口にする者があらわれ、ホラー
ムードも漂って、異色な感じです。

ただ、、どうも好きになれない作品なんです。
読んでみて下さい。社内事情にもいろいろありますが・・。


2003年04月08日(火) 浅田次郎『死に賃』

『あじさい心中』の次は『死に賃』……ちょっと滅入ります。
もし、死ぬときの苦痛からいっさいまぬがれるとしたら、いくら払いますか? 俗
に、ポックリ逝きたい、なんて言いますが、こればかりは、わかりませんよね〜。
いつ、どこで死ぬかなんて、誰にもわからない。
できたら、好きなひとの腕の中で・・なんて、チラッと浮かべましたが、死に顔を
見せるのはイヤだなぁと思ったり、眠るように、と言うか、眠っているとき(それ
も、いい夢見ながら)急死が第一希望かな。

数年前の早朝、近くで飛び降り自殺があったんですが・・ものすごい音でした。何
の音?と思いながら、また眠りなおして・・飛び降り自殺で即死だったと知ったの
は、ホースで水をジャージャー流しながらデッキブラシで黙々と作業している近所
の人を見たときです。死体が運ばれたあと、掃除する人のこと考えたら、飛び降り
なんてできません。飛び降り、ついでに、電車に飛び込み、あれもやめてほしい。
練炭心中、は言うに及ばず・・自殺は最後の手段ではないのです。生きる、生き抜
く、生き続ける、それが使命。死んではいけない。生きていれば必ず、生きていて
良かったと思える日がきます。
あなたが過ごす今日一日は、昨日病気で亡くなったひとが、せめてもう一日、生き
たいと願った一日。
残されるひとが、死なないで、せめてもう一日、と祈った一日なのです。

『死に賃』─ 親友の死で、老経営者に起きた死生への戸惑い。死に対する恐怖と死
に伴う苦痛を解決することをビジネスにしている怪しい会社の存在を知ったとき──。
設定は興味深いですね。お金はあっても、埋められない寂しさを、浅田次郎流にや
さしく描いています。いつの間にかラブストーリーに ! 傍にある幸せには気づか
ない、、ということでしょうか。しっとり。。


2003年04月06日(日) 浅田次郎『あじさい心中』

桜が満開です。
この季節、浅田次郎の作品が読みたくなるのは、『うたかた』(「見知らぬ妻へ」
収録、光文社文庫、2002.1.30記)の印象が強いからでしょうか。風にまかせて散
る桜に、人生の哀しみを感じるとき、どっぷりと浅田次郎のせつない世界に浸りた
くなるのです。あぁ、、つくづく、せつな好きです。

ミステリ疲れの後に選んだのは、「薔薇盗人」(新潮文庫)。帯には、“悲しい瞳
に、バラは咲かない。”罪つくりな6短編──あぅ、久々に帯にキュン。。胸キュン
帯ランキング(今、考えました。笑)上位間違いなしです。期待が高まります。
で、ど、どんな罪つくり? 泣いちゃうのでしょうか? と、ページを捲って最初
は『あじさい心中』。リストラされたカメラマンとさびれた温泉街の踊り子のお話。

つかの間、でも、深く心通わせていくふたりが・・せつないです。
誰かを理解するのって、時間は関係ないんですね〜。たった一夜で、踊り子は、こ
ころをすべてカメラマンに開き、カメラマンも踊り子からの心中の誘いを承諾します。

浅田次郎の描く哀切は、技巧に裏打ちされながら、技巧を感じさせない何かがあっ
て、いい感じです。
そして、安心して泣ける・・と思ったんですが、今夜の涙腺は鈍感モードなの
か・・泣けません。。
あぁ、、なんとなく思いきり泣きたい。でも、泣けない。泣きたい。泣けない。泣かせて……。


2003年04月03日(木) 夏樹静子『あのひとの髪』

先月から読んでいる「乗り遅れた女」(新潮文庫)の最後の作品になりました。
どんどん暗い気持ちになっていくお話が続いたので、最後くらいは明るいかと思っ
たのですが、やはり、ドンヨリ。

『あのひとの髪』─ 夫の通夜の席に、夫の愛人だという女が来て、遺髪がほしいと
言い出します。
自分は妊娠している、お腹の子は遺産を相続する権利がある、親子関係をDNA鑑定で
証明したいから亡くなったひとの髪の毛を毛根をつけて2、3本……。

ドキドキして、先を読むのが怖くて怖くて、、これって、重いテーマですね。
夫の髪の毛を渡して、親子だと証明されたら、夫を信頼していた気持ちを裏切られ
ることになるし、夫ではなく第三者の髪の毛を渡したら、夫を信頼していないとい
うことになります。
うーん、難しいです。すぐに返事はできないですよ。でも、荼毘にふされてからで
は間にあわない。
どーします? あなたなら。

そこで、妻が選んだのは──。
ぜひ読んでみて下さい。
ラストで愕然、愛人のずうずうしさはあんまりですよ!


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