水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
2003年03月31日(月) |
夏樹静子『ママさんチームのアルバイト』 |
はふー、昨日に続いて、またまた後味の悪いお話です。 卓球クラブの主婦たちが、クラブの運営費とおこづかいを稼ぐために、もー!とんでもない ことをやるんです。こ、これって、アルバイトじゃないでしょ!犯罪ですよ!
アルバイト、なんて言うから、軽い気持ちで大それたことをやるんです。主婦が4人集まるから 気も大きくなるんでしょうか・・。リーダー格の主婦のキビキビした動作が目に見えるようで、 そうそう、こういうタイプの人、いるいると、笑いたいような、怒りたいような・・。 このリーダー、何でも思い通りにならないと気がすまないようですね。メンバーの私生活も しっかり握り、、、人の幸せに嫉妬して・・。心地悪さを感じながら、ズンズン引き込まれました。
そして、計画通りにすすめていても、そう上手くはいきません。ええ、そうですとも。こんな企みに 騙されるほど、世の中は甘くないのですよ、奥さん! 面白いような、腹立たしいような、悲しいような、ネットリした濁りのウズに気が重くなりました。
2003年03月30日(日) |
夏樹静子『二人の目撃者』 |
突然、夫に愛人がいると電話がきたら、、、んー、どうしましょうか? そして、脅迫してきたら・・やん、ワクワクしますぅ〜♪(オイオイ)
もし、わたしの所にそんな電話がきたら、「えっ?電話番号をお間違えじゃないですか?」 で終わりです。「組の者が」なんて持ち出されても、平気ですね。たぶん。(わお!強気!)
愛人の存在が夫の社会的地位を脅かそうと、それは夫の責任。愛人と夫が負うべきもので、 妻が苦しむことはありません。あ、こんなふうに書くと、すっごく冷たい人間だと思われそうで、 ちょっと躊躇するんですが、愛人をもつなら、それ相当な覚悟と管理能力が必要です。 そして、盗聴の心配のないテレパシーで、離れて暮らす愛人と会話できるくらいのスキルが ほしいですね。愛人は代わりがいても、仕事は替わりがないと覚悟しましょう。次の愛人は すぐ見つけられても、転職先はなかなかありませんよ〜。(きゃ!脅かしてる?)
『二人の目撃者』 ─ 夫の愛人に嫉妬する妻が、脅迫電話をかけてきた男に……。 後味が悪いです。すっごくモヤンモヤン。 妻が大切だったら、結婚生活を守りたかったら、今の仕事を失いたくなかったら、 夫は、まわりにサトラレないように愛人とのひとときを楽しんでくださいませ。 いちお添えておきますが、決して不倫を奨励してるわけじゃありません。それから、愛人も 妻ある男とつきあう時は、慎重に。妻に迷惑をかけちゃいけません!
こ、怖いです。こんな女、いるような気がします。悪意を胸に秘めながら、独り旅をする女。 高級旅館の宿帳に他人の名前を書く女。 わざとその名前を少し変えて書く女。 わざと忘れ物をして、世の中の平和を乱そうとする女! 自分が行ったこともない旅館から 忘れ物が届いたら、気持ち悪いですよ〜。少し名前が違っていたら、偽名で泊まったみたい じゃないですか? 旅館から届いた忘れ物を夫や恋人が見たら、妻や恋人が密会旅行してると思うじゃないですかっ!
高級旅館+偽名+忘れ物=不倫! うわぁ!これって、罪になるんじゃ、罪ですって! 不信の種をまくために独り旅するなんて! そ、そんなに同僚の幸せが憎いんでしょうか?
「乗り遅れた女」(新潮文庫)第三話『独り旅』で、孤独な女の悲しい愉しみを知ることに。 そして、小さな悪意は、とんでもない結末を目の前に突きつけます。メリハリが効いた作品 で、もしかして、もしかして、、、と引っ張られ、ラストでドドーン! 読んでみて下さい。
ひとり旅、一人旅、独り旅・・漢字で印象がずいぶん変わりますね。『独り旅』って、ホントに ひとりきりな感じがします。「独り」で思い出すのは、皆川博子の『鏡の国への招待』 (「秘密の手紙箱」、光文社文庫、2002.02.09記)。こちらも孤独な女ゆえの愉しみを持ってます。 でもでも、孤独って言ったら、誰もが孤独なんじゃないかな〜。恋人がいても……。
2003年03月26日(水) |
夏樹静子『三分のドラマ』 |
ある夜、人を轢いたという119番通報で救急車が現場に到着した時、倒れている人はすでに 死亡していました。車を運転していた若い男は、道路に人が寝ていたと言い、死亡した男の 妻は、そんなはずはないと言い張ります。行政解剖をしたところ、持病のクスリの血中レベルが 過飽和状態で、心臓発作を誘発しやすくなっていたことがわかります。 病死か轢死か、事故か殺人か、監察医が書いた鑑定書は──。
死亡した男の妻の登場のしかたが、ほらほら、この女は怪しいですよ〜と言わんばかりで、 妙な安心感があるのが不思議ですねー。夏樹静子の作品は、2時間ドラマになっているのが 多いというのも頷けます。どこを見たらいいか、指差しで教えてもらっているよう。
そして、このラストは ! 一件落着かと思ったら、、わお!そ、そ、そんなぁ〜新しい(というか古い)真実が! でも、こうじゃないかなぁ〜って、チラッと思いましたよ。ハイ。 夏樹静子の描く妻って、なんか一生懸命ですね。ある意味、一途です。 世の中の妻たちの期待を裏切らないツボをちゃんと知ってる感じです。あ、だから2時間ドラマ 向きなのかも。
監察医の鑑定書で、残った人の人生が左右させられるのは、当然のことながら大変なんですね。 うむうむ、、重責です。
2003年03月21日(金) |
夏樹静子『乗り遅れた女』 |
昨日、とうとう戦争が始まりました。 戦争は悲惨です。狂気は小説の中だけにしてほしいです。 罪もない人が殺されるなんて、悲しすぎます。兵士でも普通の市民でも、同じ一つの命です。 とにかく、早く終結してほしいと願うばかりです。
このところ気ぜわしくて、なかなか本も読めずにいました。 落ち着こうと読み始めたのが、夏樹静子の「乗り遅れた女」(新潮文庫)。あぁ、夏樹静子の作品 というだけで、安心感があります。読みやすい文体、わかりやすい設定と人間関係、そして、 読者を巧みに結末とは違う方向へ誘導していく“ミスリード”が用意してあり、ハズレがありません。 というのが、わたしの中の夏樹静子ワールドです。6編のミステリを読みながら3月が終わりそうです。
まず表題作『乗り遅れた女』、、なるほどー。。 新幹線に乗り遅れたと、東京駅からタクシーに乗って新潟へ行った女──。その夜、東京では 殺人事件が起き、被害者は意外なところから、その女と線で結ばれます。
東京から新潟までタクシーを飛ばすなんて、いかにもアリバイ作りの匂いが!犯人はこの女! と思わせながら、ぐいぐい引っ張っていってくれます。短編ながらも読み応えはずっしり。 犯人の気持ちには共感できないけど、わかる部分もありますね。もし、わたしだったら・・ あわわ、、こ、怖い。。どんな理由があっても、そんなこと考えちゃいけません。
2003年03月15日(土) |
二階堂黎人『八百屋の死にざま』 |
哀愁の名探偵、渋柿信介は、いなくなったイグアナを探してほしいという依頼を受け、探索に 出かけます。こども番組にでていることがきっかけとなり、公園で新しい友だちができて、 イグアナ探しを手伝ってもらいますが、なかなかイグアナは見つからないまま、翌日、彼らに 誘われて行った公民館で、殺人事件が起き……。
「ズッコケ三人組」(那須正幹・ポプラ社)のような明るい子どもたちのシーンが、殺人事件で一転、 人間の心の闇をズームしていく切り替えが、怖いほど鮮やかです。 密室殺人のトリックは意外にあっけなく・・。そして、イグアナ探しの結末は、思いがけないもの でした。イグアナ探しと殺人事件が、巧い相乗効果を呼び、響きあいます。
殺人事件の推理を、一生懸命ケン一に話す母ルル子、なんかいいですよね〜。 ルル子の推理に最後まで耳を傾ける父ケン一、優しいです〜。愛し合ってるのがよくわかります。 うん、うん。(と、しばしうっとり・・) そして、渋柿信介、シンちゃんは、頭脳明晰なだけでなく、探偵は職業ではなく生き方であると 自覚してるのがすごい !
二階堂黎人「クロへの長い道」(講談社文庫)は今日でおわり。四編どれもが印象的で、一番が 決められません。いや、その、別に決める必要もないですけど。 軽いミステリをお探しの方、ミステリじゃなくても何か読みたいという方、お試し下さいまし。 わ!解説で、大地洋子もシンちゃんのファンになってました。大好きよー、シンちゃん !
2003年03月13日(木) |
二階堂黎人『カラスの鍵』 |
シンちゃんこと、渋柿信介は私立探偵で尚且つ、テレビの子ども番組で人気の子役です。 この日、クイズ番組に出演したシンちゃんは、全問正解! 家族でハワイ旅行を獲得し、スタジオを 出た時、事件に巻き込まれます。なんと、違うスタジオで人が死んでいるのが発見され、その後 まもなく、テレビ局が預かっていた高価なものが無くなっていたのです。
タイトルの『カラスの鍵』は、お察しの通り、局内で無くなったお宝で、このお宝はどこに── というミステリなんですが、前半のクイズ番組でのシンちゃんの珍答が面白くて面白くて、 お宝はまぁいいよいいよ、そのうち出てくるんじゃない?状態に・・。テンポ良くすすむ前半に すっかり満足、胸いっぱいになってしまいました。
肝心のお宝の理化学トリックは・・あぅ・・。ちょっと適切な言葉が見つかりません。 はぁ・・?という感じ。読んでみて下さい。シンちゃんのキャラが強烈すぎて、お宝はかすみそう。
孤独な私の無防備な心に侵入した若い男は、自分は孤独な探偵だと呟いた。 なぜ彼が探偵を名乗るようになったのか、私には知るよしもない。明日はまた、彼の事件簿 「クロまでの長い道」(講談社文庫)を高鳴る鼓動を押さえながら読むことだろう。 ↑ますます、シンちゃん化♪
2003年03月11日(火) |
二階堂黎人『クロへの長い道』 |
私立探偵、渋柿信介は、同じ幼稚園の友だちであるイクコちゃんから犬探しを頼まれます。 イクコちゃんが飼っていた「クロ」を、世話を怠っていたからと、お父さんが捨ててしまい、 かわりに新しい犬が家にいるというのです。「クロ」は、濃いこげ茶色で、全身の毛は異常に 長く、外見は丸々としていて……。「クロ」はどこに──。シンちゃんは無事に「クロ」を 見つけることができるでしょうか──。
「クロへの長い道」(講談社文庫)の表題作ですが、わずか52ページ、収録4編中一番短くて、 あれあれあれまという間にクライマックスを迎えます。んー、あれあれあれまを変換すると、 うふふ→ふむふむ→へぇ〜→うんうん→ほほう→おおお!! といった経過で、ムダがない ですね〜。(うきゃ!えらそーな感想で・・ども)
シンちゃんの名探偵ぶりとニヒルな語りをピシュピシュ楽しめました。母ルル子、父ケン一との 夕食後の団欒シーン(シンちゃん的には、仕事上の情報交換)には、ほんわかほっこり。。 ルル子とシンちゃんの車中での“なぞなぞ”もホッとします。先月読んだ本田孝好の『瑠璃』 (「MISSING」双葉文庫、2003.02.08記)では、「僕」とルコの胸騒ぎを呼ぶ“なぞなぞ”にドキドキ でしたし、今日のシンちゃんの“なぞなぞ”には、自然に笑顔になっちゃいます。ふたりの関係 を如実に表す“なぞなぞ”で、作品も人物も顔がはっきりするものなんですねー。
二階堂黎人と本多孝好が、なぞなぞ本を書いたら面白いものができると思うんですが・・。 「孤高な探偵・渋柿信介の暁のなぞなぞ」と「君を愛さずにはいられない僕のせつないなぞなぞ」 なんて、どーでしょ?
おっととと、クロの話がなぞなぞに・・ラストはイクコちゃんのお父さんが悪者にならなくて◎。 読み終えて、私は静かに本を閉じた。明日はまた、新しい小説が待っている。←シンちゃん化
2003年03月09日(日) |
二階堂黎人『縞模様の宅配便』 |
本屋さんで、冒頭2ページをさっと読んだら、わたしのツボにドキュンとはまり、レジに 直行しました。二階堂黎人「クロヘの長い道」(講談社文庫)、4編の短編集です。 カバーデザインの三日月を背にした小さなワンちゃんも、いい感じ。
どこが、ツボかと言うと、主人公が魅力的なのです。彼の名は渋柿信介。 6歳の幼稚園児なんですが、私立探偵気取りでバリバリハードボイルドを漂わせ、 「私」の一人称ですすんでいきます。も〜そのひとこと、ひとことが笑えますぅぅ〜♪ どんなふうに事件を解決していくのか、楽しみ、楽しみ。。
で、最初の『縞模様の宅配便』で、すっかり≪シンちゃん≫のファンになりました。 (あゃ、、作者の思いのまま、素直な読者ですよねー。シンちゃん、大好き!) ある日、友だちを遊びに誘おうと家に行くと、その友だちはいなく、宅配便の配達員に 母親がぎこちない対応をしているところでした。不穏な何かを感じたシンちゃんは、 夜、帰宅した刑事の父も実体がはっきりしない事件を追っていることを知ります。
シンちゃんも面白いけど、父ケン一もユニークです。母ルル子はもっとユニークです。 ケン一、家族に事件のこと話すのはどうよ?捜査上の秘密とか問題ないの? と、一瞬思ったのですが、ふわりと飛んでいきました。家族が仲いいのって、イイよね。 コロコロ読めて、のどごし爽やか。ハーブのど飴ミステリ、かな。
2003年03月06日(木) |
宮部みゆき『鳩笛草』 |
『朽ちてゆくまで』では予知能力、『燔祭(はんさい)』では念力放火という超能力の世界を 見ましたが、今日の『鳩笛草』は、人の心を読み取れるリーディング能力を持った女刑事が 主人公です。ちょっと背中にふれただけで、その人の心の中にあるものが見えてしまう・・。 ふと、数年前のテレビドラマ「サイコメトラーEIJI」を思い出しました。遺留品に手を翳しただけで、 犯人の姿や意識が見える高校生、映児(TOKIO・松岡クン、気が短い)とプロファイリングで 犯人を追う志摩刑事(大塚ねね、クールでカッコいい!)が大活躍。面白かったです。
あのドラマの映児は、その能力ゆえに友だちとケンカしたり、悩んだり、体調を崩したり、 自分の能力を呪ったり、苦しそうでした。『鳩笛草』の本田貴子刑事も苦しみます。 全体を覆うのは、特殊な能力を持つ者の悲しみと苦しみですね〜。すごい能力なのに、 刑事だからこそ、人に言えないのは、つらいでしょうね。今日は、ビシバシ伝わりました。
そして、同僚の刑事が温かくて、救われます。どんな能力を持っていても、やはり、ひとり では生きていけない。誰かに支えられ、誰かを支え、そうやって生きていくんです。
「鳩笛草」(光文社文庫)の3編に登場した3人の女性は、それぞれ衝撃的でした。 一番良かったのは?と聞かれたら、『朽ちてゆくまで』です。構成は、ホント見事です。 ぜひ読んでみて下さい。
2003年03月04日(火) |
宮部みゆき『燔祭(はんさい)』 |
「クロスファイア」の青木淳子は、こんなふうに始まったのかと思うと、なんだか、 古いアルバムを見せてもらったようで、濃密な時間を過ごした気分です。 ただ、心に何か引っかかるんです・・何か読み落としているように落ち着きません。
『燔祭(はんさい)』─ 高校生の妹を殺され、犯人に復讐を考える兄に、同じ会社で 働く青木淳子が協力を申し出ます。淳子には念力放火(パイロキネシス)能力があり、 対象を見つめるだけで発火させることができたのです。
目立たぬように暮らさなければならない特殊な能力を持つ者の苦悩が描かれては いるんですが、なぜか文中に留まったままで素直にこっちにこない、、というか、わたしが 受け取りを拒否してるみたいな状態なのです。うーん、何か引っかかります。 殺された妹を兄が回想するシーンのせいでもなく、自分を武器だと言い切る淳子に 近づけないからでもなく・・。
本当に復讐なのか、自分の力が暴発する前に使いたいのか、微妙なところです。 何より、復讐という名のもとに人を殺す、、なんて許されないのでは・・。
2003年03月01日(土) |
宮部みゆき『朽ちてゆくまで』 |
久しぶりに宮部みゆきの本を選びました。「鳩笛草」(光文社文庫)は、表題作の他に 「燔祭(はんさい)」「朽ちてゆくまで」を収録した中編集。以前、「クロスファイア」の 青木淳子が最初に登場するのが「燔祭(はんさい)」だと聞いてから、読みたいリスト にずっとあったので、ようやく会えたという感じです。
『朽ちてゆくまで』 ─ 幼い頃、事故で両親を亡くし、祖母と暮らしていた智子。 祖母が亡くなり、荷物を片付けていた時、奇妙なビデオテープを見つけます。 映っていた幼い頃の智子には特別な予知能力が──。
SFとミステリの縦糸と横糸がきれいに織り重なって、しっとりとした読後感です。 登場人物がみな親切でいい人なのが、ちょっと気になりますが、こうだからこそ 作品が温かく、主人公がより大きな力に見守られているようで、安心できるのかも しれません。苦しみを経て成長した智子に、穏やかな明日があってほしいです。 ラストの静けさが余韻となって、タイトルの奥深さを改めて知りました。
明日のことがわかったら、それがgood news でも bad news でも心の平静を保つのは とても難しいですよね。わからないから、今を楽しめるような気がします。
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