五行日記
ガム



 完全に取り戻したらそのときは。

自分のどこが好きかと聞かれたら

他には思い浮かばないので声と答える。

僕はこの一週間、その声を失ってた。

話す声、歌う声。

今はもう、だいぶ取り戻しつつあるけど。

2004年11月30日(火)



 我が輩はガムである。

名前は12年ほど前にもらった。

思いがけず名付け親のひとりと電話で話した。

何年も話してないなんて思えないくらい相変わらず気さくで

それがすごく懐かしく、すごく嬉しかった。

名前に負けないよう、これからもガムシャラで行こう。

2004年11月29日(月)



 最低限の仕事。

外から妨害する風。内から妨害する風邪。

昨日よりも酷いような気がしたけど大丈夫。

昨日の『クスリ』が効いている。

一歩一歩を踏みしめて、たすきを次に届けよう。

それが今日の仕事。後は無事に帰るだけ。

2004年11月28日(日)



 シナリオライターな日。

どうせ使えないのに朝から晩まで考えるシナリオ。

まるで売れない脚本家のよう。

せっかく採用したシナリオは主演女優のアドリブで台無し。

なかなか思ったとおりにはいかないもんだ。

それならこんなシナリオ、ライターで燃やしてしまえ。

2004年11月27日(土)



 新陳代謝するジグソーパズル。

日々かたちを変える僕のジグソーパズル。

合わなくなったピースを捨てて、新しいピースを填め込む。

完成型なんて見えないし、何ピースなのかも分からない。

だから途方に暮れるときもあるんだ。

あまり衝撃を与えないでよ。すぐに壊れてしまうから。

2004年11月26日(金)



 無味無臭の短電話。

せっかく淹れた珈琲なのに味も香りも感じない。

鼻声なのがばれないように用件だけの電話にしようか。

なんてことを考えながらジョグダイヤルを回す。

とりあえずメールでって弱気の虫。

あー、もう。鼻の下が痛い。

2004年11月25日(木)



 体温計はどこだ?

食べ物や飲み物、自らの唾液でさえ

喉を通るたびに痛みを感じる。

全身の粘膜が潤いを失い、瞬きの数が多くなる。

寒さのせいじゃない寒気で四肢が震える。

やべ。風邪ひいたっぽい。

2004年11月24日(水)



 気分は畳上。

畳の上で目覚めるなんていつ以来だろう。

死にゆくときはこれとは逆に瞼が重くなっていくのかな。

アセトアルデヒドが鈍器を振り回す前頭葉。

鈍い頭痛の中で「死ぬときは畳の上がいい」

なんてことを考えた二日酔いの朝。

2004年11月23日(火)



 忘れるためのスパート。

忘年会シーズン突入。今年1発目の忘年会。

その日一日の忘日会にならないようスローペースで飲む。

新しいことを覚えるたびに古い記憶を忘れられるから

残された一ヶ月に銘肝スパートをかけよう。

嗚呼、会も終盤。スパートをかけてしまった。

2004年11月22日(月)



 地に4本の足をつけ。

来週のドライブに向けてタイヤを換えた。

タイヤの換え時は毎年悩むことだけど

11月に換えたのはもしや初めてかもしれない。

降ってからでは遅いし何かがあったら困るから。

大切な人を乗せるってこういうことなんだ。

2004年11月21日(日)



 鷹と犬鷲のあいだで。

着々とチーム作りは進んでいるようだけど

僕はまだ応援するか決めかねている。

たとい東北のプロ野球チームであっても、

たといよく利用するサイトであっても、

たといサイト名が被り気味であっても。

2004年11月20日(土)



 これからのこと。

ある意味長かった一週間が終わる。

やたらと「懐かしさ」にドアを叩かれた週だった。

「懐かしさ」の話す「これからのこと」を聞いていると

嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになった。

僕も少し「これからのこと」を考えてドアを閉めた。

2004年11月19日(金)



 0時前の勝ち組。

本日解禁のワインを飲みながらメールの返事を待つ。

返事が来るまでの間、何度か酒を変えつつ青に零す。

「返事が来ない俺は負け組?」

2時間半後に返事が来ると青は言った。

「満面勝ち組の顔です。」

2004年11月18日(木)



 惑星オフライン。

オールディーズとバドワイザーのネオンとビリケンさんと

腕まくりのマスターがいる小さな星へ不時着。

「浸る」には何かが少し足りなかったけど

そこは懐かしさで溢れてた。

懐かしいからって電話してゴメン。

2004年11月17日(水)



 6%に響く声。

上りも下りも6%勾配の農道を走って県庁所在地へ。

片道1時間半の道のりはちょっとしたドライブ。

毎日こんなこと続けたらのどがかれてしまうだろう。

今は声を大事にしないといけない時期だ。

声を張り上げて歌うのはやめとこう。

2004年11月16日(火)



 灰色の窓。

窓を開けた。自分のルールを少し破って。

答えが必ずしも白か黒では無いことに気付いて

それに納得できるようになったんだろう。

窓を覗いた彼女も驚いた様子はなかった。

心強い味方。相談もしてみるもんだな。

2004年11月15日(月)



 緊張の糸電話。

文字での会話より声での会話を選んだ。

緊張の糸が張りつめ声が裏返りそうだ。

でもこのライブ感がまた新鮮でいい。

上を望んだらキリがないから今はまだこんな感じで。

見えない糸なんて多分無いけど今は電話で繋がってる。

2004年11月14日(日)



 タマネギの匂いが優しかった一日。

外の天気がどうだったかなんて分からない。

カーテンも開けなかったし外にも出なかった。

考え始めると躰を動かしたくなくなる悪い癖。

ただこういう日なんだとぼんやり考える。

英気を充電、栄養を充填。こんな日なんだって。

2004年11月13日(土)



 温タイム。

伊勢堂岱の遺跡近く、湧き出る温泉を汲みに行く。

さっきまで冷たかったペットボトルが即席の湯湯婆に変わる。

家に帰り500mlの温泉を湯船に開放すると一瞬鼻を突く匂い。

半身浴の躰から噴き出る汗が音を立てて温泉に溶ける。

躰の芯がどこにあるのか、今日初めて分かった気がした。

2004年11月12日(金)



 驚愕の嗅覚に戦々恐々。

何が貴女に届いてると言うんだ?普段と違う鼓動?匂い?

全然会うことも話すこともないってのに

このタイミングで連絡をしてくるなんて。

いずれにしても、ここまではいい流れで来てるんだ。

頼むから邪魔はしないでくれ。

2004年11月11日(木)



 哀しきブロッケン。

五里霧中。無我夢中で走る。

後ろから迫る車の灯りが、一瞬、僕の影を霧の中に映す。

何年か前の僕なら、きっとその影と並んで走れたろう。

過去に追いつけないもどかしさで哀しくなる。

小さな僕の影なのに、なんて大きい影なんだ。

2004年11月10日(水)



 腐葉土デモンストレーション。

吐き出せずに腐った言葉が喉の奥でデモ行進。

今さら吐き出せないからって

口舌機動隊が反対交互のバリケードを張る。

腐葉土のように栄養のあるものなら

迷わず飲み込んで自分の一部に変えてやるのに。

2004年11月09日(火)



 自称スポーツマンの憂鬱。

何年かぶりのランナーズハイ。

灯りの届かないとこまで走ろうと思った。

だけど星も街も車も察してはくれない。

気持ちをくんでくれたのは月だけ。

僕は見えない月に今日できる一番の顔をした。

2004年11月08日(月)



 ありがとう。色々貰った日。

冬の匂いがして実家にタイヤを取りに行った。

米、味噌、椎茸、滑子、ブロッコリー、長芋、洗剤を貰った。

その後、サッカーの球納めに行った。

新しいユニフォームと今季の優秀選手賞を貰った。

部屋に帰ると懐かしい人たちから電話を貰った。

2004年11月07日(日)



 橙と群青のディスク。

僕はこのまま、想像力の衰えを歳のせいにして

この先ずっと生きていくのかな。

僕はこのまま、創造力の衰えを日常のせいにして

この先ずっと座り続けるのかな。

それじゃダメだ。重い腰あげようぜ。

2004年11月06日(土)



 切なさは刹那じゃなく。

昔のアルバムを開くようにCDをひっくり返す。

卒業文集をめくるように歌詞を読みふける。

思い入れのある曲や気になり始めた曲たちが

それぞれの扉を開けて僕を中に入れてくれる。

本当は僕が彼らを招待しないといけないのに。

2004年11月05日(金)



 紙屑の中で溺れながら。

何人もの僕がシュレッダーにかけられた紙屑の中で泳ぐ。

細切れの僕が手足に絡まってうまく泳げない。

もがき苦しむ僕の目に、耳に、鼻に、口に

記憶の断片を刺激する僕の欠片が入り込んでくる。

結局僕を苦しめてるのは僕自身なんだと気が付いた。

2004年11月04日(木)



 照れ笑いと沈黙の間。

早く質問形式の会話から抜け出したいと

手掛かりを探して彼女の視線の先を追う。

ひとつずつ彼女を知って、

少しずつ彼女が分からなくなる。

深い森の中に足を踏み入れてしまったように。

2004年11月03日(水)



 明日、天気に。

左右反対の君を見て1日が始まる。

今日みたいな雨の日でもそれは変わらない。

明日になれば会えるのに堪らなく声が聞きたい。

電話してみようか。でも、

明日話すことが無くなったら困るな。

2004年11月02日(火)



 急がば回せ。爪が伸びる。

週明けの朝一番で爪が伸びるような出来事。

期限を過ぎた災害救援ボランティアを募る回覧。

「誰かがやってくれるだろう。」

こんな感じで回ってる職場が好きになれない。

なぁ、どんな思いでそれを見た?

2004年11月01日(月)
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