−ヘルペン−
わしは、原型を留めないトータスブルグ城を囲む呪竜を眺めていた・・・
呪竜に意思など無い。 ただ、召喚者の望んだ標的を破壊し尽くすまで動く哀れな物体。 そんなモノに、今まで築き上げてきたモノを破壊される。 その様を目に焼き付けていた。 忘れてはいけない情景。
燃えさかる炎。 瓦礫の山。 逃げまどう人々。 有らん限りの力を振り絞って呪竜と戦う者たち。 崩される傍から城壁を修復しようと試みる者。 今にも崩れ落ちそうな城門で突破者を返り討ちにする親衛隊・・・
全世界的に発生した呪竜は、倒しても倒しても召喚されていた。
隣国であり、友邦でもあるオルトニアは、天空の神殿が降臨し、破壊工作者の活動拠点であるアジトが3カ所にあった。
自国の防衛に心血を注ぐか、友邦への『義』を果たすか。 わしは王として『義』を果たすことを決断した。
同時に、自らの国が呪竜王に良いように使われないようにするための策を講じることにした。
国民へ「オルトニアへ築城支援」の旨を伝え、勤務を終えた者から、国外へ「追放」という形で国外へ脱出させる。 落城前に全てを終わらせるためには、やらなくてはいけないことが多かったが、中将がその役を買ってくれた。 自らが瓦礫の下敷きになることも厭わず、中将は国民を国外へと誘導していった。
わしは疏埜馥と離ればなれになった。 わしは自らが愛する者を危険に晒しておくという、愚かな考えは持ち合わせていなかった。 ずっと一緒に居たいとか、そういった綺麗事では済まされないと、わしは思っていた。 思いは、そんな安いものではない。
全ての誘導を終え、ほとんど瓦礫と化した城には、ほとんど人が居なくなった。 それでも、呪竜は止まることを知らなかった。
夜。
月明かりに照らされた呪竜は、瓦礫をさらに踏みにじった。
城門を守った親衛隊も、国民を誘導した中将も、トータスブルグの騎士の象徴・アンクロワイヤーも、瓦礫の下敷きとなった・・・
−城下町トロン−
とある街角の墓石。 十字架は粉々になり、墓石は跡形もなく崩れていた。
その周りを、青白い炎が飛び、そして散った・・・
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