王室。
取り立てて何も用事もないが、机に向かって漫然と書類を眺めていた。
『コンコンコン・・・・』
返事もする間もなく、ノックした者が入ってくる。
「私はノックするもんねっ」
「返事は待ってないだろが」
「まぁねぃ」
珍しい来訪者に一瞬驚きの表情を見せる、が、直ぐに直す。 あっちは、一瞬不快な表情を見せるが、それも直ぐに直った。 そして、相変わらず目を合わせずに話を続けた。
「用件は?」
「あるわよ。貴方と違って、用件がなきゃ来ないもん」
「私に後任指名の権限はないけど。一応、希望だけ伝えておこうと思って」
「不在のままでいい」
「ずっと不在で済むはずないでしょ。・・・を希望しとく」
「・・・にわしの命預けろと?」
「他に適任者がいる?」
「あいつは自由な方が良いだろ。お前以外に預けられる奴はいないからな」
「私はもう居なくなるんだからね」
分かり切ったことを言っていた。 無論、あっちもわかっていることだが。 それでも時は進む。
「外務も探さないとな」
「アンシはヴィージェに引き継ぐ、と言っていたような」
「あいつはお前のためにしか生きない。そういうもんだ」
「・・・一緒に死なれても、ついて来られても迷惑。結局『ダメ』なのだとわかった」
「お前のために生きてる奴は、お前が考えているより多い」
「私は自分のために生きろ、と強制したりしない。『誰かに命を懸ける』という意味を履き違えた人が、自分のために生きてくれても迷惑なだけ」
「まぁ、そうだが。まぁ、・・・死ぬなら盛大にな。国葬してやるよ。有史以来、初だぞ」
本当は『お前は命を懸けて着いて来るんじゃなかったのか?』とでも聞きたかった。 が、それはもう、何も意味を為さない言葉だ。
だから、一番嫌がるであろう事を、サラッと言ってみた。 そして、微かな微笑みを携えて、予想したとおりの答えが返ってきた。
「此の地で眠るのだけは後免だわ」
しばしの沈黙の後、二人で顔を合わせて、今日初めての大笑いをした。
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