るしふぇるの日記風味
日記だかなんだかわからんけど(ぉ

2002年11月12日(火) 王宮日誌11

いつもの使いの者が、いつもの素晴らしい味のコーヒーを持ってくる。
・・・もちろん、皮肉だが。

「ねぇ・・・ずっと気になってたんだけど」

「ん?」

「このコーヒー作ってるの、誰」

「さぁな」

「ある意味神業だと思うわ」

「お前と良い勝負だな」

「・・・」


こうして普通の会話を楽しむのは、王位についてから初めてだったかも知れない。
そして、きっと、最後だろう。

アルティは、口元を引きつらせた笑い顔を向ける。
料理の腕は・・・・まぁ、それはまた、別の機会に話そうか。


「まぁ」

「なに?」

「愛に生きた方がいいぞ」

「そうだね。今まで死ぬことばかり考えてた」


一度死んでいるわしには、痛いほど良くわかる一言だったし、本当はわからない方が良い一言でもあった。
何も返さないで、違う話を振る。


「いいなぁ・・・あるちーは」

「なんでさね」

「生きる先に良いことイッパイあるじゃないか」

「私は幸せから逃げちゃう奴なのだ」


きっと、不器用なんだろう。
みんなが思っているほど、アルティは器用じゃない。
不器用だからこそ、一つのことに、もの凄い力を注ぎ込む。
幸せから逃げる、というのは、きっと、「受け身」でいることの歯がゆさを指しているのだろう。
ただ、それが全てではないことも、十分わかっているつもりだが。


「さっさとオールド行ってこい。たまには幸せに浸ってみろ」

「・・・・・・」

「退屈だから」


幸せ自体が退屈とは思わない。
だが、アルティにはきっと退屈だろう。
理由は、それに慣れていないこととか、そんなところだ。


「退屈なのかよ」

「お前には新鮮だろ?」

「・・・限られた時間の中にいる方が、どうして輝けるんだろうね」


「そんなの当たり前だ」


アルティは、きっぱりと言い切られて少し驚いている。
そのままわしは続けた。


「無限の空間より、針の先の方が鋭い。そういうもんだろ」

「でも、それじゃ私の大事なモノを否定することになっちゃう」

「それはお前が決めることだしな。お前の今の選択肢は少ないが、無限の空間から『有』を生み出すことも出来る」

「限りなく・・・果てしなく続くモノから、何かを見出してみたいね」

「それが・・・これからのお前だろう?」


沈黙。
コーヒーカップを見つめるアルティ。
わしは、天井に向かって話し始める。


「わしは未来を生きるだけ」

「私は・・・過去に生きすぎた」


バランス・・・だと思った。
わしは先を、アルティは後ろを見ていた。
だからバランスが取れていたのだろう。

今は、二人とも前を見ているのか?
だからだめなのだろうか?

残ったコーヒーを啜り、不味そうな顔をして扉の傍まで歩いていったアルティが続ける。


「長居し過ぎたわね」

「あぁ、構わんが」

「じゃあね。また気が向いたら来る」

「まぁ」

わしの声に、扉に手をかけたアルティが振り向く。

「ん?」

「あれだな。前の男が悪すぎたんだろ」


明らかな作り笑いとわかる、乾いた笑い声を上げて、出ていった。



暫く、その声が頭から離れなかった。



程なくして、廊下から呻き声が聞こえたが、きっと不味いコーヒーの味でも思い出しているのだと思い、気に留めていなかった。


・・・それは間違いだったと、後で後悔することになる。


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