普通に目覚めた朝、アルティに呼び出されて王宮に出向く。
既に王室には、選管が入室しているので、わしの用事は全くなかったのだが。
内務の執務室に相変わらずノックをしないで入った。しかも今日はドアを通り抜けて。
「あんたねぇ・・・」
「まぁ、気にするな。で?」
「で?って・・・選挙どうするのよ?」
「立候補しただろうが」
「そうじゃなくて・・・」
「ん?」
いちいち話さなくてもわかってるだろう?という目を向けてくるが、気付きたくないので視線と話を逸らした。
「そういえば、ディーヴァと仲良くやってるか?」
「うるさいわねぇ・・・。そうやって話をはぐらかそうっての、見え見えなんだけど?」
「用がないなら帰るぞ?水やりせにゃいかんからな」
「ああ・・・待って。自宅周りはどうするつもりなの?」
やっぱり、と思った。
構わずドアを開けて執務室を出た。
その後をアルティは着いてくる。
「大体な・・・選挙だからって自宅を回って、誰彼構わず媚びる気はないだろ?」
「一軒一軒回ることが、媚びることになるとは限らないよ」
王宮の廊下に響き渡る二人の声。
廊下には他には誰もいない。
「私は最大限の努力をして欲しいし、最大限の手伝いをしたい」
「・・・お前は見てればいい」
アルティは息切れしながら着いてくる。
「止まれ」とか言えばいいものを。
「だーかーら・・・」
「自宅を回ることに意義を見出せないし、今度の選挙はわしらが今までやってきたことの纏めみたいなもんだ。『是非入れてください』なんて、そこまでプライド下げるつもりもない」
「・・・。・・・・・・わかった」
わしは、そう言って立ち止まったアルティを置いて王宮を出た。
アルティの申し出は、ある意味予想していたし、正直嬉しかった。
『約束』とはいえ、もう一年以上も待たせた後だし、わしの手法に対するバッシングが高まる中で、こちらにつくのは、それなりに大変だろうと思っていた。
ただ、そこまで固執出来なかった。
それはきっと、煮え切らなかった自分にそこまでしてもらう価値を見出せなかったからだと思っていた。
自宅に帰って、疏埜馥と農場に出る。
「やっぱり、家はいいなぁ・・・」
『そう?』
「ああ・・・のんびり出来るしな・・・」
『今日・・・何を話してきたの?』
「ん?恋愛相談」
『あ・・・そうなの・・・』
「うん・・・そんな感じの他愛のない話だよ・・・」
疏埜馥だって、そんな事はないとわかっていたはずだろう。
でも、何も言わなかった。
疏埜馥も覚悟を決めて、わしに着いてくる事を選んだ。
農場に漂うゆったりとした時間の流れを感じながら、二人で昼食を摂っていた。
その時、使いの者が一通の書簡を持ってやって来た。
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