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2005年07月09日(土) |
うぬぼれ鏡を眺めながら。 |
■演出家不在のカンパニーを守って旅を続けているが、毎日毎日観続けていると、自分の感性のどこかが麻痺して、作品が何かを喪ったり何かを過度に獲得したりすることによって微妙な崩れを起こしていることに気づかないのではないかと不安になる。そのことに意識的に仕事してはいるが、不安は不安。今日は久しぶりに演出家がやってきて、わたしはいつもと違う緊張感。もちろん俳優たちだってそうだ。 結果は上出来で、演出家もご機嫌。わたし自身も、自分がずれていなかったことにほっとし、誇らしい気分。何が変わったわけではないけれど、穏やかで、ニュートラルな感情でいられる、幸せな夜だ。
■地方に来ると、都市によって大体利用するホテルは決まっていて、馴染みの宿に幾度もチェックインすることになるのだが、今回は初めてのホテル。入ってみて感じたのは、設置されてる鏡が、全部「うぬぼれ鏡」だってこと。 鏡って、ひとつひとつ色んな特徴がある。総じてありのままを映すものみたいに言われるけど、縦に伸びたり横に伸びたり、微妙な歪みを生じていたり、平面的に映ったり立体的に映ったり。で、とにかく美しく見せてくれる鏡を、わたしは「うぬぼれ鏡」って呼んでいるのだ。
「うぬぼれ鏡」を眺めながら、ふと、自分は仕事をしている時、俳優たちの鏡として存在しているのだと思ったりする。自分の姿を自分で見れない、演じる自分がどう見えているか分からない彼らを、「こう見える」「ああ見える」と伝えながら、導いていくのだから。 基本は、出来るだけ「ありのまま」を映す鏡になってあげること。でも、時には「うぬぼれ鏡」になってあげることも。そして時には、ありのままを少し誇張して映してあげることが力になることもある。 人を映す以上は、自分がニュートラルでなきゃならない。ちっぽけな人間であるから、感情は常に千々に乱れがちだけれど、仕事する自分は、安定してなきゃいけない。大変な仕事をしてるんだなあ、と、しみじみ。 ホテルの中間照明でさらにうぬぼれ度を増す鏡を眺めながら、「今日は終わった。さあ、明日が来るよ」と自分に声をかける。
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