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2005年06月29日(水) 観客席の中には。

■新潟を離れて、愛知入り。滞在中は梅雨らしからぬ晴天に恵まれていた(水不足のことを思えば恵まれていたとは言い難いが)新潟が、ひどい雨に襲われている。膝までに迫った雨水に戸惑う人々をニュースの画面で他人事に見ながら、いつもお世話になっている新潟の人々を思う。
 公演中、わたしのすぐ隣で観ていた車いすの青年は、カーテンコールで車いすから落ちそうになりながら拍手をしてくれていた。障害のある全身を不器用に揺らして、感動を必死になって伝えていた。最後列から思いを飛ばす姿に、自らの仕事する気持ちを引き締めた。

 わたしの師匠は若い頃、観客の青年に喫茶店に連れ込まれ、「希望を語れますか?」と問われ、「そんなもの語れない」と答えると、「あなたが希望なんて語り始めたら、これで刺すつもりでした」とナイフをつきつけられた。それ以来、彼は、観客席には千のナイフが眠っているのだと心したと言う。
 
 そして、千のナイフとともに、観客席には、神様も降りてきている。サリンジャーの「フラニーとゾーイー」の最後に出てきた、あの、足の悪いお婆さんが。

■劇場まで歩いて行こうとしたら、朝からここも雨。時間があまったので、タクシー出発の時間、色んなことを思いながらぼんやり過ごしている。


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