2001年12月29日(土) |
第六夜 ピラミッドざんまい 4 パピルス屋で教育談義 |
メンフィスにはピラミッドはありません。 で、パス、と思ったのですが、出発前、私がガイドブックを見ていたら、友人ミセス三枝子のだんなさんであるテクラブ氏が、「メンフィスにも行くんでしょ」というもんだから、「あら、行った方がいいの?」と聞いたら「あそこは重要な遺跡だよ」というのです。彼は考古学をお勉強した人ですから、素直で場当たり主義な私は「そうか、ンじゃ行くわ」となったわけでした。
★ ☆ ★ ☆ ★ ところでカイロの市街を出ると、一気に風景は農村化します。牛で畑を耕していたり、ラクダの背になにやら積んでひっぱているオッサンが歩いていたりで・・。 そんな景色のまっただ中にメンフィスはあるのです。 古代エジプト時代には首都として栄えたといいますが、今やラムセス2世のでかい像がごろんと転がっているだけです。 ラムセス2世については、またどこかで説明しますが、私にいわせりゃ「自己顕示欲の固まりのような御仁」で、どこにでも巨像があります。奥方のネフィルタリは絶世の美人で・・と、話題に事欠かない王様です。 私には、この像よりもりりしいお顔のスフィンクスのほうがよろしゆうございました。 ギザにあるスフィンクスは顔が崩れていて、ただ巨大だけの存在感という感じもするのですが、これはサイズはMSというところですが、きれいです。鑑賞に耐えます、ね。 ☆ ★ ☆ ★ ☆
我がタクシードライバーのアブドラ氏、「私は、アンタが見学している間あそこで休んでいるから終わったら来い」といいます。 「ハイよ」ということで行ったら、なんとそこはパピルス屋の店先でありました。 すすしげな木陰のテーブルで彼はお茶しています。 「オオーやってくれるやないかい、買わんぞい」と内心思いながら座ると、目の前で水タバコを吸っていた水色のガラペーヤをのオヤジサンから「何を飲みますか」と声がかかりります。「フリー<無料>だから。これが私の国のもてなしの習慣だから」とアブドラ氏が口を挟みます。 「それじゃ、シャーイ<エジプト紅茶>を」 「どうです、この国は好きですか」と水色ガラペーヤ。 またきた。 「昨日ついたばかりですから、わかりません」 「ほう、日本からですか」 「いいえ、アムステルダムから。友人が住んでいます。あまりに気候がちがうので私は疲れています」 「そうでしょう、」でしばらく水タバコ、おもむろに「あなたはパピルスに興味はありませんか、私の店を見ませんか」 おお、きた、きた。 「けっこうです。なぜなら昨日来たばかりで買う気もありませんし、今は疲れていますから。もし次に来ることがあったら、見せて下さい」 水色ガラペーヤは「わかった」とうなずきました。それ以上進める様子はありません。 多分、「土産物屋に行かない」という約束できていると、アブドラくんから聞いているのでしょう。 例えば「行かないはずなのにパピルス屋に行ったと私が抗議したら「オレは薦めなかった、休んでいただけだ、店のオヤジにいわれて日本人の女が付いていった」ということになるわけで・・・お利口なやり方ですねえ、はい。でも「NO」がはっきり言える私には通じないやり方ですよん。
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「私にはひとつの質問がある」 水色ガラペーヤが、ムム、なんじゃという顔をしました。 「何で、あの子は学校に行っていないのですか。親はやらないのですか」 今度はアブドラ氏を見ました。 メンフィスに来る前の村で通りかかったラクダの写真が撮りたくて、一度車を止めてもらいました。通りには自動車部品のお店がありました。店番をしていたのは10歳くらいの男の子でした。 「学校はもう終わったの?」 と訊いてみたのですが、通じません。アブドラ氏が通訳してくれました。 「行っていない」 「どうして」 「好きじゃないそうだ」 そんな話をしたのでした。 水色ガラペーヤは虚をつかれたような顔をして「わたしの子どもは行っているが。ああ、わたしたちは子どもを学校にやっているよ」とアブドラ氏を見ました。 かれも「ああ、やっている」と大きくうなずきます。 「子どもを学校にやるのは親の義務でしょう。私の国では、働かせたりしたら罰せられる」 「彼は好きじゃなかったんだ、この国ではよくあることだ」 「学校が好きではない子はしばしばいるよ」 水色ガラペーヤもいいます。 それはそう。 不登校10万人の国から来たわたしには、深く大きくうなずけます。しかし、あの子は学校のことを聞かれたときにすこし顔を曇らせた・・・。ホントはきらいで行ってないんじゃなきい気がしたんだけど・・。 「でも、教育は子どもを幸せにするし、その子の未来を開くのに、親はやるべきだ。仕事のヘルプをさせるのはよくないと思う」 衣食足りた国から来た観光客のいい気な意見だとはわかっているのですが、澄んだ目をした子の顔が一瞬曇ったのはなんかせつない気がしたんです・・わ。 「あなたのいうとおりだ、でもこの国は貧しい」 水色ガラペーヤがうなずきました。 ☆ ★ ☆ ★ ☆
「あなたがエジプトを好きになってくれることを期待します」 水色ガラペーヤのそんな声に送られて私はサッカーラに向かったのでした。 ところで エジプトの教育制度はどうなっているんでしょう。 そのうちに調べてみるか。
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