おひさまの日記
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ゆうべ、アンナを寝かし付ける時「七つの子」を歌った。 「♪から〜す、なぜ鳴くの〜」のアレである。
するとアンナはしくしく泣き出した。 どうしたの?と聞いてみると、ばあちゃんを思い出したと言うのだ。
私が仕事で都内に泊まりで出ていた時、アンナを母に預けていた。 アンナは夜になると私恋しさにいつも泣くのだそうだ。 母がアンナを背中におんぶして「七つの子」を歌う。 すると、やがてアンナは母の背中で安心して眠ったのだという。
アンナは言った。 「ママがお泊まりでアンナの心が寂しいでいっぱいになった時、 ばあちゃんがカラスの歌でアンナを助けてくれた。 背中におんぶして歌ってくれたんだよ。 そうするとね、アンナ、クー、クー、って寝られるんだ。 ばあちゃん、とってもやさしくしてくれる。 ばあちゃんに会いたいよぅ・・・」 感受性の鋭い子だなぁ、と、我が子ながら思う。
私はアンナにやさしくしてやることがあまりできない。 母は、そんなアンナの避難所になってくれているのだ。 私には絶対に与えることのできない無条件のやさしさをアンナに与えてくれる。 それがアンナの心を救っている。
私は複雑だった。 私以上の愛情をアンナに注いでいる母、私は一体なんなんだ?そう感じるのだ。 私には決して与えることのできないやさしさを、惜しみなくアンナに与える母。 ばあちゃんはアンナにとって世界で一番やさしい人、心の支えなのだ。 私ではなくて。 私はとても複雑だった。 アンナは、私の機嫌が悪く、イライラしていると「ばあちゃんちに行く」と言う。 私が与えられないものを、彼女が得ようとしているのだから仕方がないのだけれど。 私はとても悲しくなる。
私が幼い頃を思い出す。 今で言うドメスティック・バイオレンスの父、 そんな父に抵抗することもできず、けれど、そのストレスに歪み切った母。 母は幼い私に、時として、とても非情だった。 子供心に深く言葉の矢がささったことも幾度となくあった。 父の激しい言動の暴力と、母の後ろからにじり寄るような圧力。 私は逃げる場所がなかった。 だから、うずくまった。
今、アンナには逃げ場所がある。 そして、その逃げ場所は、かつて、私に決してやさしくできなかった、 小さな私の心をじわじわと傷つけた、その母だ。 アンナに接する母には、幼い私を傷つけたあの母の面影はまったくない。 観音様のようだ。
若かりし頃の母は、傷だらけで、 自分の子供にも皮肉を言うことくらいしかできななったのだろう。 子供を傷つけることしかできなかったのだろう。 とても私を愛しながらも。 そのことで彼女も苦しんだに違いない。
そして、それは今の私なのだ。
お母さん、 私は、あなたがアンナに接するように、私に接してほしかった。 やさしく、笑顔でいてほしかった。 今のあなたが、私の幼い頃にほしいお母さんだった。
でも、あなたがそれをすることができなかったこと、 今はとてもよくわかる。 とても、よくわかるよ。 だから、アンナをよろしくお願いします。 私がまっすぐに愛を与えられない分、アンナをよろしくお願いします。 あの子の心にいつも日が差すように。
お母さん、お母さん、私のお母さん。 私もいつか、今のあなたのようにやさしい母になれるでしょうか?
昨日、アンナのピアノと私のヴォイトレに、光先生を訪ねた。 音楽室のドアを開くと、聞き慣れたメロディが流れてきた。 それは、オルゴールの可愛らしい音で「アンナのうた」を奏でている。 そう、光先生が、私の作った「アンナのうた」をアレンジしてくださっていたのだ。 なんて素敵な曲に生まれ変わったのだろう! 体がワナワナ震えた。 マイクを持ち、そのアレンジに合わせて私は歌った。 歌い終わると、私の頬には涙が伝っていた。 聴いていたアンナも私に抱きついて顔を胸に埋めて動かなくなった。
「好きよ 好きよ アンナちゃん ママはアンナが大好きよ 生まれる前から愛してる ママの小さな宝物」
私はあなたにやさしくできなくて、どうしようもなく不器用な母だけど、 いつか、あなたはこんな私を憎み、去っていくかもしれないけど、 私はあなたを愛してるんです、アンナ。 うまく愛せないけれど、愛してるんです。
ママは歌うことしかできないから、心を込めて、この歌を歌います。 あなたが大人になって、子供を生んで、 不器用だったママを知った時、少しはママを許してくれるかな? ママがアンナをとっても愛していること、その時わかってくれるかな?
ママは本当はアンナにうんとやさしくしたいんだ。
人は母になり、知る真実がある。 人は母になり、悟る道がある。 人は母になり、人となる。
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