ふと窓の外を見た。
僕の部屋からは大きな大きな時計台が見えて、
人々は皆、それを時々見上げて生活をしている。
速くもなく遅くもない時計の進むスピードを人々はいつも。
その日偶然この町に降り立った旅人も、
何十年も住み続けてきた住人も、
その姿を見上げ、そしてまた自分の生活に戻る。
時計台は、いつもそうして在った。
時計台はこの町を眺めている。
時々目の合う人に微笑みかけ、
約束の時、昼食の時、帰宅の時、就寝の時、ただ流れを刻む。
誰も見上げない時計台はその存在意義を失ってしまう。
時計台はこの町を眺め続けてきた。
夕暮れ色に染まる時刻、冬の凍てつく空気、全てを知っていた。
僕はその時計台と対話が出来る。
朝は眠そうな鐘の音、昼はのんびりした鐘の音、夜は厳かな鐘の音。
気温や湿度で、この時計台は機嫌がかわる。
僕にはそれが分かる。
昨日誰かが俺を見て舌打ちして走って行ったんだ、
この前は約束に遅れてきた男を女がずっと待っていて鐘を鳴らしにくかった、
時々そんな事を語ってくれる。
僕はこの時計台が大好きだ。
そして、この時計台を必要として、あるいは偶然見上げて、この町に居る人たちが大好きだ。
だから僕は今日も、きちんとこいつの整備をしている。
僕も、この時計台を必要としている人々の一人なのだ。
どうかどうか、この町の人たちがいつも通りの穏やかな日々を送れますように…。
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