DEAD OR BASEBALL!

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Vol.160 2003年ドラフト総括(巨人編)
2003年11月27日(木)

 シーズンオフ、とりわけ優勝を逃したオフでは決まっていの一番に主役になる巨人。原監督の解任で幸先よく話題の先陣を切ると、小久保にローズと話題性では他球団の追随を許さない。堀内新監督のやりたい野球はまだ見えてこないが、オフに外野から勝手に作られた青写真に躍らされると、シーズンに入ってとんでもないしっぺ返しが待っているかも。とは言え、無理やり独自色を出すと“笛吹けど躍らず”にあっさり陥るのもこの球団の特徴で、この辺にも巨人を率いるということの難しさがありそうだ。



 投壊現象に陥って、そのまま修復できなかったことが優勝を逃した要因であることは明白。チーム防御率4.43はリーグブービーで、昨年優勝時の3.04に比べるとよくもここまで落ちたという印象。ただし先発陣は16勝の上原を中心に3点台に抑え、木佐貫・久保・林という若い投手の台頭もあり強烈な陣容は出来上がっている。今年は伸びなかったが真田も昨年は高校卒1年目で6勝を稼ぎ、故障明けになるが高橋尚も戦列復帰すれば計算しやすいタイプ。工藤と桑田が仮に計算できない状況になってもローテーションは機能する計算で、新興勢力がここに食い込むのは容易ならざる状況。

 自由枠獲得の内海は社会人で思ったより伸びきらなかった印象で、この先発陣にいきなり入るのは厳しいかもしれない。しかし、23歳以下に揃った投手の中で先発完投型と言えるのは根市ぐらい。入来のトレード話は御破算になったが、そもそも左で今後も計算できる先発候補は林ぐらいという状況。内海ぐらいの若さとスケールがある先発左腕の補強は、いまの巨人にとって願ってもないタイミング。2年後ぐらいにその効果ははっきり出てくる筈だ。仮に上原がFA権を取得次第メジャーに飛んでも、木佐貫・久保・根市・林・内海・真田・2巡目指名の西村・4巡目指名の平岡らでローテーションが組めれば、危機感よりも期待感の方が先行すると言っていいぐらい。

 こうなるとやはりアキレス健はリリーフ。開幕前から懸念はあったが、今年は抑えの河原がボロボロになったのを引き金に、最後まで崩壊に歯止めがかからなかった。安定感ある前田が前半は頑張ったが後半捕まり、現有戦力では手当てする人材自体不足しているというのが正直な印象。岡島や河原が昨年ほどの投球を取り戻せば何とか格好がつきそうだが、現状ではアテにできず、サンタナの残留も苦し紛れの頭数というのが本音だろう。ここは当然トレードも含めた補強ポイントなのだが、下位で指名した山本と南も先発完投型。ここに巨人の価値観というものが見えるが、求められているのは気持ちと球威の強いスペシャリスト級の素材。

 「投手は先発完投が理想、中継ぎは先発からあぶれた投手の仕事」という価値観が巨人には古くからこびりついているが、堀内監督も元巨人の大投手でそういう考え方なのだろうか。石川賢(八戸大→中日3巡目)、佐藤賢(明治大→ヤクルト6巡目)、宮川兼二郎(日本文理大)クラスの投手の指名はなければいけなかった話。投手強化というベクトルは間違っていないが、リリーフに求められるのは岩瀬(中日)のようなスペシャリストの仕事、という価値観が固まりつつある時代。リリーフに対する視野狭窄という病的な偏見が今年の惨状を招いている、それぐらいの反省があってもいいが、どこか目線がチグハグな感が否めない。



 ローズの加入を前提に考えれば、さらに厚みを増した巨人の野手陣。正直な感想を言えば巨大化と言うより肥大化という印象だが、打力そのものは充実していると言っていい状況で、計算通りなら穴らしい穴は現状見当たらない。仁志が復調してセカンドを固めればセンターラインも破綻は少なそうだが、仮に仁志が計算できなくても5巡目指名の岩館は内野ならどこでもうまくこなせる万能型。江藤と小久保が争うサードの守備固めとしても重宝しそうで、悪い言い方をすれば便利屋的に扱われそうだが、ベンチに必要なタイプで損はない指名。

 内外野共にオールスター級の布陣と言われており、控えも鈴木に斉藤に清水と実力派揃い。ただ、全般的に野手は高齢化していて、次代の備えが内野に長田、外野に山本ぐらいしか見当たらないのは現実的な不安要素。「足りなくなれば余所からまた」というのは笑えない冗談で、自前で備えていく姿勢だけは捨ててほしくない。

 吉良俊則(柳ヶ浦)、中川裕貴(中京→中日1巡目)クラスの大物高校生は無理にしても、石川俊介(葛生)、黒瀬春樹(県岐阜商→西武2巡目)、松坂健太(東海大仰星→西武5巡目)、小島昌也(自由ヶ丘→オリックス7巡目)という大型選手に全くトライしなかったのは、どうしても疑問。5巡目に高校生捕手の佐藤を指名したが、阿部の下に加藤や横川がいる捕手に手を出すより先に手を出しておくべきポイントはいくらでもある筈。



 黄金の先発陣を作りたいという意思は間違っていないし、その為の指名も決して無駄な訳じゃない。ただ、「現状をどう捉えているか」という地に足のついた目線が欠落しているように見えるのは、どうしても気になる。欲ばかりが先行して選手を囲い込んで、じゃあこれからどうするかという目線があまりに細すぎる印象を受ける今年の巨人のドラフト。

 現状では野手が余っているが中継ぎの手当てがなく、その余っている野手も5年後にはほぼいなくなっている。そういうことが見えていれば、ここまで現状無視の指名方針にはならないように思えて仕方ない。それなら清原と江藤をセットにして岩瀬でもトレードで獲れば、という厭味の一つも言いたくなってくる。繰り返すが、これは笑えない冗談である。                                            
巨 人
自由 内海 哲也 投 手 東京ガス 左左 185・82 オリックスの1位指名を拒否してから3年、念願叶って巨人に入団。3年前に期待した伸び率から考えると伸びきっていない印象もあるが、昨年のインターコンチ杯に選ばれているように持っている素質は目玉級。きれいに割れる縦カーブはタイミングを壊す必殺球。
2巡 西村 健太朗 投 手 広陵 右右 184・79 高校生投手でこれだけアウトローに集められる能力は流石にセンバツ優勝投手。抜群の肘のしなりから放たれるMAX145km速球はまだ伸びる余地充分で、甲子園でも三振の山を築いた必殺スライダーはコースに決まればまず手を出す非凡な斬れ味。
4巡 平岡 政樹 投 手 徳島商 右左 179・74 この1年でMAX147kmまで球速が上がり急激に成長したが、開きがちなフォームを改善すればまだまだ速くなる。左打者の膝元に絡みつくようなスライダーのキレはボールを長く持ててよく指にかかっている証明。
5巡 岩館 学 内野手 東洋大 右右 177・76 ショートを守らせたときの安定感は東都でも屈指だが、その気になれば日米大学野球のように内野どこでも守れる器用さもある。横の動きに鋭いタイプの遊撃手で、絞って打てるここ一番の勝負強さも。
6巡 山本 賢寿 投手 帝京大 右右 186・82 投球に荒さは見えるが、ボリュームアップした148kmにスライダーとフォーク交えて1試合17奪三振の凄味も。課題のコントロールはユニフォームの映えない下半身を強化すれば解消してもう一段上のレベルへ。
7巡 佐藤 弘祐 捕手 東北 右右 186・79 地肩の強さにパンチ力は恵まれた体格の産物。みちのくの快腕・ダルビッシュ有をうまく引っ張るインサイドワークと捕球の巧みさに信頼感。
8巡 南 和彰 投手 福井工大 右右 184・84 北陸大学リーグで24連勝、1試合平均2ケタ奪三振取って当たり前な安定感と崩れない強みで北陸の無敵伝説を作り上げた。今春は肩を痛めてリタイアしたが、故障さえなければこの順位で指名される投手ではなかった筈。




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