日本シリーズでは涙を呑んだが、開幕から他球団をぶっちぎって独走しただけに、戦力的には完全に充実期に入っている。ここ数年の積極的な補強が機能し始めた点がチームの底上げに繋がったが、冷静に見てみれば現在のチーム編成は平均年齢が高く、優勝した今年がピークとも思える状態。充実期にこそきっちり先を見据えた補強をしなければ、85年のフィーバー以降に坂を転げ落ちた忌まわしい歴史を繰り返すことになるかも。 エース井川は、去年前半のような圧倒的な凄味は影を潜めたが、負けない粘り強さで20勝到達。若さのある絶対的なエースを、今年は伊良部13勝、ムーアと下柳がそれぞれ10勝ずつと下支えしたが、伊良部と下柳が移籍を視野に入れたFA宣言をし、現時点でムーアの去就は不透明という状況。3人で計33勝が退団すれば、普通なら一大事どころの話ではないのだが、阪神の場合はかえって世代交代を一気に進めるチャンス。 久保田が1年目から5勝と台頭し、杉山・江草・藤田・藤川と若い先発候補が虎視眈々の状況。その下にも加藤・中林・新井智・田村と未完の大器が控え、実績組では薮と福原もいて、さらには今年セットアッパーで大車輪の活躍を見せた安藤も本来は先発に戻したいところ。同じ世代に若い有望株が揃うこの状況は、むしろ伊良部や下柳、ムーアの退団をウェルカムとしてもお釣りがくるほど充実している。さらに今年はそこに自由枠で即戦力左腕・筒井が加入。実績がないだけに不確定要素もあるが楽しみの方が大きい、というのは昨年のダイエーと酷似した状況。加えて井川という大エースが軸としてドンといる点が、不安要素をほぼ完全に払拭している。 ウィリアムスと安藤を軸に文句ない勝ちパターンを構築したリリーバーの方が、むしろ不安要素。安藤が後ろに残ってもウィリアムスとリガンの両外国人に対する依存度が高く、ウィリアムスが一番後ろに回るなら左の中継ぎで計算できるのは吉野ぐらい。勢いのある三東に期待があり、横浜から金銭トレードで獲得した竹下も1イニング行かせられる力量はあるが、あとはリリーバータイプのサウスポーがコントロールに難がある中村泰ぐらいという状況を考えれば、下位で左投手の指名はもう1人あってもよかったところ。安藤が先発に回ればリリーフは完全にウィリアムスとリガン頼みの状況、オリックスからトレードで獲得した牧野が化ければ面白いが、桟原だけの指名では少し手緩い感も。 先発陣には若さと戦力数が充実しているが、反面リリーフには絶対数が少ない印象がある。右なら森田岳(金沢学院大)、山道伸之(九州国際大)の大学勢、左なら仁部智(TDK→広島5巡目)、小宮山政和(NTT東日本)の社会人勢が狙い目だったかも。 チーム打率、得点、盗塁でリーグトップを記録した打線は、全くと言っていいほど隙がない。チーム本塁打は5位だったが、機動力を絡めて繋いでいく打線はしばしばビッグイニングを演出し、他球団のバッテリーに悲鳴を上げさせた。現レギュラーの高齢化は気になるが、ファームに次世代候補も多数控えている。強いて言うなら、来期22歳以下の野手が狩野・桜井・松下の3人という点が若干手薄に見えるが、少なくとも現状に不安はない。 今年は夏に故障離脱した濱中に4番として使える目処が立ち、今岡→赤星→金本の3人が自在に好機を作る。濱中の後ろにはアリアス・片岡と控え、桧山がベンチに座る充実ぶりは他球団から電撃トレードの打診があってもおかしくないところ。内野には関本・梶原康・沖原、外野には平下に中村豊と準レギュラー級の控えが揃い、唯一内野の弱点だったショートは今年藤本が完全定着。鳥谷の獲得はやり過ぎという感じもあるが、藤本を安心させない為にはこれぐらいの荒療治もあってもいい。そう言いたくなるほどのポテンシャルが鳥谷にはある。戦力の厚みは今年1年で随分と筋肉質になったイメージで、バランスの取れた編成は最低でも向こう2〜3年は弱点が見当たらない程。 準MVP捕手の矢野は来期36歳という年齢ほど老け込みを感じさせず、あと4年ほどは一線でやれてもおかしくない。野口がサポートに回り、狩野と浅井が次代の正捕手で控えるところに、今年は小宮山の指名。備えはできているが絶対数自体が少ないので、高校生捕手の指名は大正解と言っていいだろう。 ここ数年は即戦力に偏った指名の阪神だが、若い投手陣を中心に、気付けば安定勢力としての地位を固めつつあるような印象を受ける。自由枠獲得の2人は、チーム事情云々の話を考えずに単純にいい選手を獲ったなという感じ。絶対的な若さはこれから注入していく必要もあるが、充実期に鳥谷と筒井を獲れたことで満点に近い評価は与えられてもいい。 去年は大量11名を指名したが、今年は5名という少数精鋭型。昨年は大量の自由契約を出したという背景もあるが、恒常的な戦力循環の理想は緩過ぎず急過ぎず。現状を考えれば、これぐらいで丁度いいのかもしれない。
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