DEAD OR BASEBALL!

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Vol.153 2003年ドラフト総括(近鉄編)
2003年11月21日(金)

 01年に猛烈な爆発力でリーグ優勝してから3年、その間は今一歩の戦いが続いてはいるものの、随分とチームが成熟してきたなという印象が強い。パ・リーグの安定勢力として優勝争いに常に顔を覗かせる地力がついてきたいまは、世代交代もうまく進んでいるようにも見え、以前のようなイチかバチかという諸刃の剣のような危うさは随分と薄らいできた。



 今年のチーム防御率4.30はリーグ第2位。4.98で優勝した2年前と比べればかなり投手陣は整備されてきている。23歳の岩隈がリーグ最多の11完投で15勝を挙げ、若きエースとして完全に一本立ちしたのが最大のポイント。昨年最多勝のパウエルも岩隈を上回る196イニングを投げて14勝と、主戦級の働きをしっかり維持してローテーションを支えた。この2人が二枚看板で、シーズン終盤には高校卒1年目の阿部健がプロ初先発初勝利を含む2勝で飛躍のきっかけを掴み、来期は3本柱を組む算段がしっかりでき上がった。

 山村や前川の低迷は頭痛のタネだが、故障が癒えれば高木は復帰すれば大きな戦力。力の絶対値はある谷口もいて、終盤にリリーフから先発に回った山本まで含めれば左腕も取り敢えず揃う。2年目を迎えるバーンも8勝から大いに上積みが期待できる存在で、3本柱の存在が先発陣の遣り繰りにいい意味で幅を持たせているのは強調材料。来期はそこに自由枠で香月が入ることで、若干不足気味だったスケール感と印象の大きさが随分と大きくなる感がある。頭数が揃ってきたがドラフト上位指名の本格派はいなかったところに、近鉄始めての自由枠獲得で香月を獲れたのは絶好のタイミングと言っていいだろう。

 リリーフ陣は最後まで勝ちパターンが作れなかった。ベテランの高村と吉田がクローザー兼任で頑張り、三澤が安定した働きで中盤を支え、小池や愛敬が戦力として機能したまでは良かったのだが、肝心の岡本が不調で軸がいなかったのは痛い。先発陣に算段が立った以上ここは補強ポイントなのだが、それに見合う指名は7巡目の栗田のみ。横浜からトレードで獲得した福盛に対する期待が大きいのだろうが、吉田が来年もクローザーを兼任し、山本が前に回ることを考えると、特に左は高齢化に加え絶対数自体が不足。右は岡本の復調や若い宮本の成長があれば何とかなりそうだが、佐藤賢(明治大→ヤクルト6巡目)、金本泰尚(花園大)、小宮山政和(NTT東日本)らの指名まであってよかったか。



 主砲の中村が膝の故障で絶不調に陥ったが、その分を埋め合わせる以上の勢いで中村以外の選手がよく打ち、全く打線の破壊力が落ちた印象を与えなかったのがこの打線の恐ろしいところであり底力。大村が.300復帰に加え27盗塁と走る意欲を取り戻し、吉岡も自身初の.300到達と円熟してきた。磯部は勝負強さを取り戻し、何より長年の穴ポジションだったショートを阿部真が.291でガッチリ固めたのは大収穫。加えて、星野・北川が共に50打点以上を荒稼ぎというサブとは思えない八面六臂の活躍を見せ、益田・川口・下山も含めた控えまで戦力は充実。ローズが抜けるのは確かに痛いが、中村の復調さえあれば悲壮感はないと言えるだけの迫力は充分にある。

 現状に大きな不安はないが、来期のレギュラー候補に20歳代の選手が阿部真(26歳)、大村(28歳)、川口(28歳)ぐらいしか見当たらないのは懸念材料。三木・森谷・大西・坂口が次代の候補だが、いてまえ打線の看板に適いそうなのは坂口ぐらいで、そもそも競争を激化させる意味でも中心選手候補はそろそろ補強しておきたいところ。

 2巡目指名の吉良に4巡目指名の坂という内外野の大物野手を獲得したのは、その意味では理に適った指名と言える。チームリーダー水口が来期35歳で無理がきかなくなってきており、坂は総合力的にかなり早い抜擢があってもおかしくない。吉良はローズ以外には川口ぐらいしかいない左のスラッガーで、将来の4番としての期待を現実的にかけた指名。中本は若さの足りない二遊間の補強だが、前田や星野という万能型が揃っている以上、ちょっと狙いが見えない。それなら田中幸長(宇和島東)のような高校生スラッガーの指名がもう1枚あった方が面白かった。

 正捕手不在の状況を考えれば、捕手は野手で唯一即効性を求める積極補強箇所。筧にどうしても野手のイメージが重なり、若手が近澤と横山ぐらいしかいない現状、競争を活性化させる意味でも新里だけでは足りない気がする。新岡裕豪(藤代)、富岡拓也(鳥栖商)といった高校生捕手も1人補強したかったところ。



 投手陣の世代交代が結果を出しつつあるいま、次に動いていくのは当然野手で、全体的に必要な選手をバランス良く指名したという印象。ここ数年のドラフトでは明らかな高校生路線に打って出た近鉄だが、長年苦しんできた投手陣にいい変化が追い付いてきたことで、余裕を持って次代に備えていく姿勢が固まりつつあるように見える。吉良と坂はその象徴的選手と後に言われるかもしれない。

 岩隈や阿部健のように、下位指名選手をファームでうまく育てていることが戦略を高校生路線に動かした要因かもしれないが、徐々にその意図が形として固まりつつある現在の近鉄。安定勢力に上昇したのは、フロントと現場の歯車がうまく噛み合ってきたことの証明かもしれない。こうなってくるとチームは上昇カーブ。崩れないチームが出来つつあるように見える。                      
近 鉄
自由香月 良太 投 手 東芝 右右 180・82 高校時は甲子園で春夏連続ベスト8、昨年の日本選手権ではベスト4にチームを導いた。変哲無い本格派投手に見えて左右の制球抜群で、手元で伸びが落ちない重い速球で楽に追い込んでキレるスライダー流せば一丁上がり。
2巡 吉良 俊則 外野手 柳ヶ浦 左左 180・78 風を斬るような鋭いヘッドスピードで通算54本塁打の高校生No.1スラッガー。執拗な外角攻めにはリストの強さで左中間に押し込み、内角は強烈なヘッドの返しで引っ張り抜く。穴の少ない強打者のムードがプンプン。
4巡 坂 克彦 内野手 常総学院 右左 179・73 高校生レベルの内野手でこれだけ破綻の少ない選手もそういない。どんな投手にも対応できる備えた打撃は、柔らかいだけでなく甘く入れば一発で仕留める振りの強さあり。ボールに対してケンカしない守備は正確さ抜群。
5巡 新里 賢 捕 手 法政大 右右 177・80 正確に二塁で殺せる強肩はきれいな球筋で伸びていく。インサイドワークで特徴を出してければ先輩・浅井(阪神)のような落ち付いたムードも出てくる。
6巡 中本 和希 内野手 近畿大工学部 右左 177・72 走好守三拍子揃ったタイプだが、持ち味は軽快でリズム感ある遊撃守備と瞬発力を感じるベースランニング。一段上の投手への対応力を磨けばリードオフマンの器。
7巡 栗田 雄介 投 手 千葉工大卒 左左 173・78 宮城建設野球部の廃部で一年発起し入団テスト受験、見事プロ指名にこぎつけた。体格以上に馬力を感じる投球スタイルで、小気味良い140km前半の速球とスライダーで攻める。




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