優勝した昨年ほどの爆発力は、流石になりを潜めた感があった今年の近鉄。戦力的な上積みはほとんどなかったものの、その中で離れた2位とは言えAクラスをキープできたのは、優勝を経てしぶとさと地力を積んできたからだろう。まだ安定飛行とは言えないが、少なくとも以前のような「10かゼロか」という不安定さは薄れてきたように思える。 しかし今オフの近鉄に訪れたのは、激震に続く激震。パを代表するクローザーの大塚がポスティングでのメジャー移籍を表明すれば、「いてまえ打線」の象徴中村 がFAでチームを去ることが99%決定的。さらに高村にメジャー移籍の可能性が残っている今、大袈裟でなくチームは大転換期を乗り越えなければならない時期にきている。 3人の穴は1年で埋まるものではないが、埋める努力はしなければならない。中村が抜けるのは確かに痛いが、ローズという主砲が一本残り、吉岡、川口という長距離砲がいることを考えれば1〜2年は凌げる。こういう事情だから、今年のドラフトで欲しいのは即戦力投手。昨年規定投球回数に達したのが17勝で最多勝のパウエルと8勝の岩隈2人だけという現状、岡本がクローザーに回ったときの弱体化した中継ぎを考えれば、それは尚更。 宮本、藤崎、松本という速球派、サウスポーの成長株である高木らに成長が見られるのは好材料だが、1年を任せられるかというと疑問府が付く。前川、門倉、小池、赤堀といった辺りに勢いが戻る気配がないので、岡本→大塚という勝ちパターンを失っただけで投手陣全体の陣容が崩れたような感覚さえもたらす。手を変え品を変えで凌ぐにしても、絶対数自体が足りないというのが正直な感想。 ところが、フタを開けてみれば1巡目〜6巡目まで高校生の指名がズラリと並び、投手指名は阿部と宇都の2人。1巡目抽選に破れた高井と阿部は、高校生の中でも即戦力に近い完成度を持っていたが、下位指名でも大学・社会人投手の指名がなかったのはちょっと分からない。 自由枠に決まっていなかった選手の中で、三東洋(ヤマハ→阪神6巡目)、中村泰広(日本IBM野洲→阪神4巡目)、福家大(JT)、渡邊恒樹(NTT東日本)、鈴木貴志(王子製紙→ロッテ5巡目)、奥本典文(ホンダ熊本)といった社会人勢、堤内健(日本大→横浜9巡目)、小出琢磨(関東学院大)、渡辺秀一(東北学院大)、河村健治(広島経済大)らは現実的に充分獲得可能だった選手。中村や大塚の退団を見越したドラフト戦略が立てられなかったのなら、それはフロントの完全な失策だと思うのだが。 中村の穴は全員でも埋められるものではないが、それでも何とか格好を付けないとならない。現時点での構想は吉岡を三塁に回し、川口を一塁手で使うプラン。ローズを4番に据え、周囲を吉岡、川口、磯部で固めれば悪い陣容ではないが、求心力の物足りなさは解消できない。 これはドラフトですぐどうなるものではない。現実的にはトレードや外国人補強でが時間を稼ぎつつ、ファームで次世代の大砲を育て上げるしかないが、ドラフト以前に大砲候補の吉川元と中濱をトレードで巨人に放出していることを考えれば、フロントにそういう危機意識はほぼゼロ。業務提携をしているドジャースから、ラソーダ氏経由で優良外国人を獲得することに期待をかけるしかない。 7巡目以降で3人の外野手を指名したが、どの選手も打撃より守備走塁に力があるタイプで、「いてまえ打線」復権に適いそうなのは坂口、筧の高校生コンビというチグハグさ。上位で本当に指名したかったのは即戦力投手。こういう悪循環は一度ドツボにハマるとなかなか抜け出せない。 高校生野手にしても、坂口や筧のようにまとまった中長距離砲タイプよりは、吉村裕基(東福岡→横浜5巡目)、山本光将(熊本工→巨人5巡目)のような超長距離砲タイプの方がチームカラーには合ってた気がする。2人とも打撃に相当クセがあるが、中村を育てた実績でも分かるように、クセを生かしつつ時間をかけて育て上げるのが近鉄ファームの伝統。 捕手枯渇の状況も深刻で、正捕手不在の現状を見れば高校生捕手2人の指名ではとても間に合わない。水口の衰えで決め手に欠ける二遊間も手当てが急務なのに、そんなことには目もくれず素材重視で高校生を獲った今年の近鉄。「迷ったらポジションに関係無く1番いい選手を獲れ」というのはドラフトの鉄則だが、今年の近鉄は現状無視の暴走に近い感覚。阪神と近鉄の指名が入れ替われば……と、なんとなく感じてしまう。
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