DEAD OR BASEBALL!

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Vol.109 2002年ドラフト総括(西武編)
2002年11月26日(火)

 日本シリーズでは巨人によもやの4タテを食らったが、シーズンで90勝の白星を重ねた栄光が色褪せた訳ではない。一言で言えば充実期を迎えた今年の西武だが、実際には安穏とできる状況ではないのも事実。充実期ということは目の前に下降期が来ているということで、この時期のドラフトを甘く見る球団は大抵急坂を転がるように戦力が落ちていく。



 12球団トップの投手陣を抱えていることは、誰もが認めるように間違いない。昨年も書いたが、期待株・主力・ベテランの年齢構成が高い次元で整っているのだ。

 今年は故障もあり散々だった松坂(23歳)だが、体調充分なら強力な戦力になることは間違いない。松坂の穴を完璧に埋めた張(23歳)、安定感ある投球の許(27歳)の3人が20歳台の先発で、西口(31歳)、石井(32歳)、三井(30歳)もまだまだ老け込む年ではない。リリーフの豊田(32歳)、潮崎(35歳)、水尾(35歳)、デニーのトレードを考えればやや高齢化の影も差してきたが、青木勇(26歳)、土肥(27歳)、後藤(29歳)、森(29歳)の勢いと布陣は完璧の一言。ファームには真山(22歳)、大沼(24歳)、鳥谷部(24歳)、星野(26歳)という速球派が控え、どこをどう見ても穴が無いというのが現在の西武投手陣。

 こういう状況では高校生投手を獲得して、次代の競争を活性化させるのがフロントの役割。ファーム組が殻を破れないまま主力が高齢化していくという最悪の状況を想定するなら、積極的に高校生投手を獲得してファームに緊張感を与えることが肝要。それを考えれば、長田、小野寺というバリバリ即戦力2名の獲得は、西武にとっても2人にとっても恵みをもたらすか疑問。

 長田はストレートの伸びとコントロールの良さに加えて、2種類のスライダーのキレ味も充分に一軍レベル。小野寺は無名の関甲新学生リーグ所属ながら、完封を続けてきた完投能力と安定感は全国トップクラスの実力。それでもこの2人が現在の西武投手陣に食い込むことは容易ではない。今年ファームで11勝を稼ぎ、すでに下では別格の存在になった一昨年のドラ1右腕大沼も、今年の一軍登板はわずか5試合。恐らく2人とも中継ぎかファームスタートが待っているが、実績ゼロから始まる彼らのプロ生活が軌道に乗るか本当に心配になる。正直に言えば現在では余剰戦力になる可能性が高く、相思相愛だったとは言え「マズい球団に入ったな」という印象。

 不足気味の先発左腕を強化する意味でも、高校生左腕の獲得に向かうべきだったと思う。高井雄平(東北→ヤクルト1巡目)の競合参加はもちろん、田村領平(市和歌山商→阪神8巡目)、溝口大樹(戸畑商→ダイエー4巡目)、長峰昌司(水戸商→中日5巡目)、廣田佳史(東海大浦安)辺りは現実的に獲得可能だった選手。貪欲と言うよりも飽食と言った方が近い即戦力投手2名の獲得で、球団の危機管理に一抹の不安を感じる。



 野手陣も投手陣と同様のことが言える。確かに今年の戦力は万全だったし、脇役を入れ替わり立ち代わり起用した伊原監督の選手起用も磐石だった。しかし冷静になって考えれば、安泰どころか大地殻変動一歩手前という印象すら受ける今年の西武のオーダー。少なくともこの布陣は短命に終わる可能性の高い布陣である。

 最大のネックは若さがないこと。20歳台のレギュラーは小関(27歳)、松井(28歳)のみで、共に若手と言える年齢を遥かに超えている。和田の大化けという要素もあったが、カブレラという超強力な主砲を中心に据え続けられたことが打線の好循環最大の要因。しかし、カブレラの米球界復帰と松井のメジャー移籍は、近い将来に訪れうる極めて現実的な未来。

 カブレラと松井の抜けたオーダーを想像すると、得点力の低下は飛車角落ちでは済まないレベル。ファームには中村(20歳)、中島裕(21歳)、大島(22歳)、高山(22歳)、赤田(23歳)と長距離砲候補の高校卒選手が内外野に揃い、今年はそこに後藤が加わる。長年正捕手を張ってきた伊東の後継には細川、野田という捕手が育ちつつあり、一見すれば備えは磐石なように見えるが、長距離砲候補の選手の成長がとにかく遅い!

 バッティングに剛柔備えた器用さがある大島、パワーやスピード感ともに「ポスト松井」の太鼓判を押せる中島裕に期待は持てるが、高山と赤田は揃って優れた身体能力を持ちながらバッティングで分厚いカベに苦しみ続け、中村と後藤は打撃以外のセールスポイントが無い状態。マクレーンの残留は後藤が1年目から活躍できる選手ではないという西武フロントの判断だが、ドアスイングを矯正しない限り後藤は売り物のバッティングでも苦戦しそうで、フロントの判断はこういう部分だけ現実的。

 彼等に奮起を促す為には、ファームに高校生野手の逸材を送り込んで競争を活性化させるという荒療治しかない。特に手当てが急務なのは二遊間で、自由枠を使った以上は尾崎匡哉(報徳学園→日本ハム1巡目)、西岡剛(大阪桐蔭→ロッテ1巡目)、長田昌浩(東海大望洋→巨人4巡目)、森岡良介(明徳義塾→中日1巡目)という高校トップクラスの二遊間は補強できないにしても、岩崎達郎(横浜商大高)、千代永大輔(九州学院)、岡地篤志(中越)、吉川淳一(初芝)辺りはあってもよかった指名。

 指名打者と中堅手が日替わり定食のようだった現状を考えれば、特に外野守備の即戦力もほしかったところ。鞘師智也(東海大→広島4巡目)は、守備力だけでなくバッティングも磨けば和田レベルのパンチ力を持つ万能型。大友の低迷、垣内のトレード、清水の引退を見渡せば、外野手の指名も一人は欲しかったが……。



西 武
自由 長田 秀一郎 投 手 慶応大 右右 178・75 高校時(鎌倉学園)から既に144kmを投げていた本格派。投手として非常にまとまりがよく、全体的なコントロールやフィールディングの良さ◎。2種類のスライダーとチェンジアップを混ぜながら、今春の東大戦では21奪三振。
後藤 武敏 一塁手 法政大 右右 176・88 高校時(横浜)からリストが非常に柔軟で、ヘッドが使える長所で飛ばしていたスラッガーだが、それに頼り過ぎて体が開く今の打撃だと苦労しそう。守備・走塁に長所が乏しいのも気になるが……。
4巡 小野寺 力 投 手 常磐大 右右 187・82 投手としての完成度が非常に高い割に、投手としての底も見せていない好素材。ヒジがよくしなり、無駄の無いコンパクトなテークバックで打者にボールを見せず、糸を引くようなストレートが低めで伸びる。2種類のSFFも強烈な武器。
5巡 春日 伸介 捕 手 田辺 右右 183・91 春にチームをベスト4に導いた抜群の打撃センスを生かして内野手に転向か。
6巡 上本 達之 捕 手 協和発酵 右左 186・75 強肩捕手だが、むしろ持ち味は打撃。駒田(元横浜)のようなタイプで、大きいのも放てば巧く拾って一、二塁間を抜く起用さがある。
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