両リーグワーストの勝率.363、投打あらゆる部門の数字で5〜6位という数字を見ても分かるように、とにかくいい材料がほとんどなかった今年の横浜。森監督が1年の任期を残して解任され、ペタジーニの獲得合戦にもあっさりと敗退。98年にマシンガン打線と大魔神佐々木という金看板で日本一になった球団が、この4年で信じられないほどに没落した。 この現状を引き継いだのが山下新監督だが、これだけチームが崩れればかえってチーム作りはしやすいと思う。幸いにも横浜には横須賀で力を蓄えている素質豊かな高校卒選手がゴロゴロし、昨年の首脳陣もチームが早々とペナント争いから脱落したことで、若手の起用に躊躇わなかった。確かに厳しい現状だが、若手主体で新たなチームの体制を整えるにはいい時期だし、かえって面白い時期に山下新監督は就任したと思う。 先発投手陣で規定投球回数に到達したのは、ヤクルトの石川と新人王を争った吉見11勝のみ。開幕投手の三浦がケガで離脱し、川村に復帰のメドが立たなくなると、後は雪崩式でローテーションが崩壊。バワーズ、ホルト、グスマンの外国人トリオは主戦級の働きをしたが、外国人枠の問題や打線の援護がないことで数字が伴わず、来期の去就は読めない状態。 この状況を逆手にとるなら、若手にとってはチャンスがゴロゴロ転がっていると考えることができる。1年目の秦と千葉が揃って1軍のマウンドを踏み、2年目の東は中継ぎでイキのいいストレートを披露。同じく2年目の後藤はまとまりのあるオトナのピッチングを見せて、この中で秦、東、後藤の3人がプロ初勝利。 投球内容を考えれば、この4人に来年も過剰な期待を寄せるのは酷というもの。しかし、チームの現状は1枚でも2枚でも選手が欲しいところというのが偽らざる思い。期待されていた速球派の神田が解雇され(不可解!)、横山、矢野、谷口の停滞、中野渡と木塚の故障離脱、さらにクローザー斉藤のメジャー移籍まで考えれば、やるしかないという苦しい事情。 21歳以下の未完成な戦力に期待値をかけなければならない以上、即戦力補強だって何枚もほしいところ。土居と堤内は150km近いストレートと鋭いスライダーを武器にする本格派で、今の横浜投手陣を考えれば開幕からローテーションに入ってもおかしくない力量を持っている。加藤は木塚同様ストレートのキレ味で勝負できるサイドスローで、斉藤の抜けたリリーフ陣をどこまで支えられるか。横須賀には長身左腕の飯田を送り、ファーム輩出型の伝統を継続することも忘れていない。 三浦、吉見、若田部までがローテーション確定組。次候補が土居と堤内、そして外国人トリオになるが、土居や堤内がある程度の結果を残せば、福盛、森中、河原といったもう一つ突き抜けてこない中継ぎ陣への活性力になる。土居と堤内は1年目から活躍できる球団に入ったが、それだけの期待と責任を負わされる存在だということも意識していてほしい。勝負はいきなり1年目。 3割を打った打者が1人もおらず、規定打席到達者もロドリゲスと種田2人のみ。マシンガン打線の完全崩壊は投手以上に散々な状況を示しているように見えるが、シーズン終盤で台頭した古木の活躍は周りが考えている以上に大きい。中軸を打つ打者が決まれば、あとの枝葉は半ば自動的に埋まっていくからだ。 わずか1ヶ月で9本塁打を打った成長力は見事の一言。.320の打率も申し分無く、インターコンチ杯という国際舞台でも大爆発し、完全に自分の打撃を掴んだ感がある。悪癖であった小さく当てにいく打撃が完全に影を潜め、どんなボールにも対応できる万全のトップの形を固めた。首位打者を獲得した福留と同じ進化だが、福留を大きく上回る成長スピードは、七野、小池、田中充、内川、金城らを大きく刺激する筈。当然、若手抜擢の機運も高まる。 ポジションが固まっているのは、遊撃(石井琢)、三塁(古木)、左翼(鈴木尚)のみで、金城の二塁コンバートも含めてポジションはかなり流動的な状況。だが古木の台頭で、少なくとも若手に優先的にチャンスが与えられる環境は整っていると見る。選手の絶対数が少ない中でポジションが流動的ならマイナスにしかならないが、ある程度選手がいる中で流動的なら、競争激化で一気に選手層の底辺が持ち上がる可能性だってある。 ここにドラフトで獲得した選手が加わる。自由枠入団の村田は三塁手で古木とポジションが重なるが、古木のポジションを動かしたくないことを考えると村田の行き場所は一塁が妥当。北川と木村は金城との競争になるが、内野の控えが小川や種田という高齢化している現状を見れば、チャンスは十分に転がっている。外野手の河野も小池や南と激しいポジション争いが待っている。吉村は次代の長距離砲の期待を背負って、内川や石井義と横須賀にて切磋琢磨。円熟期を迎えたチームで過度の競争は磐石の強さを奪うが、発展途上のチームなら激しい競争はチーム全体を底上げする。 一言で言って、全てのポジション・全ての世代で貪欲な獲得をしたなという横浜のドラフト。補強ポイントがあらゆる部分に出ているだけに、これだけの選手を獲得しても1年で弱点を解消することはできないが、獲れる逸材は片っ端から頂こうという姿勢は見えてくる。これは横浜のスカウトが極端な高校生路線から現実モードに移行しつつある兆候。 中村の耐用年数が限界に近付き、相川や鶴岡に一人立ちする気配が見えない以上、即戦力捕手の指名がなかったのは唯一の不満。昨年3巡目指名の小田嶋は今やファームの三塁手で、打撃評価で獲得した捕手の育成の難しさを図らずも証明した格好。大野隆治(日本大→ダイエー5巡目)は上位なら簡単に食い込めたディフェンス型捕手で、向かわなかったのは大野の地元志向があった為だろうが、ならば那須義行(三菱重工名古屋)、松谷基央(JR四国)といった社会人捕手に食い込む手もあった筈。 正捕手が固まらないチームは上位にこないというのが近年の常識。来年も中村でいくのだろうか。人材自体が不足気味なのだから、刺激策があっても良かったのではと思う。
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