DEAD OR BASEBALL!

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Vol.107 2002年ドラフト総括(広島編)
2002年11月24日(日)

 素材重視のドラフト戦略と、それを促進するファームの指導力が広島の持ち味である。ドラフトでは極力マネーゲームに参加せず、FA宣言した選手の残留は認めず、12球団一と言われる猛練習で素質豊かな高校生を中心に輩出する。緒方や前田が広島の象徴的選手になっているのは、彼等がドラフト下位指名の高校生選手だったからだと思う。

 現在のプロ野球においては、逆行するチーム運営の仕方かも知れない。マネーゲームに参加できないという資金力の問題は確かにある。しかし、私はこの広島のやり方には好感を持っている。昨年も書いたが、ファームとスカウトが正常に機能すれば資金力がなくても強いチームを作れるということを、広島は今の球界に示す責務を担っている。個人的には頑張って欲しい球団の一つだ。



 今年のシーズン前、私は広島の先発陣はセ・リーグでトップクラスだと評した。完投能力の高い本格派がズラリと並んだ布陣は、毎年言われている中継ぎ・抑えの弱さを差し引いてもプラスに持っていける投手陣。だがフタを開けてみれば長谷川13勝(10敗)、高橋9勝(14敗)、黒田10勝(10敗)、佐々岡8勝(9敗)と4人が規定投球回数に達したものの、4人の勝ち負けを足すと−3と借金状態。その後ろを固める横山は例年通り故障でリタイア、河内も足踏み状態が続いている。これで今年も中継ぎが左を中心に枯渇状態なら、5位という成績もやむなしというところ。

 救いは5勝を稼いだ苫米地の存在ぐらいだが、ファームに目を向ければ玉山、横松、大竹という期待株も揃っている。黒田という軸がいるのだから、若い横山や河内が一皮剥けてくれれば悪い陣容どころか、かなり揃ったメンバーになるという点は去年と同じ。裏を返せば毎年一定の水準に達する期待値に、実際の成績が伴っていないということ。

 なまじ期待が持続して、それが形になりきらないだけに、これは広島という育成型チームの性格を考えれば、ドン底にいるよりもタチが悪いかも知れない。期待が毎年先行して、本当の危機感に繋がらない為である。

 矢野、天野、酒井といった投手が一軍のマウンドを踏み始めているが、投球を見ればこれは時期尚早というのが正直なところ。解消されない左腕日照りも含めて、はっきり言えば確固たる戦力の絶対数は実際の感覚よりもずっと少ない。

 そういう中でトータル4人の指名、うち投手が2人という指名は少ない。少数精鋭で鍛えると言えば響きはいいが、ここにきて少し停滞傾向があるファームに喝を入れる為には、もう少し指名があっても良かった気がする。

 永川は自由枠入団だが、プロの一軍で活躍するにはもう少し角を取るべきだと思うので、実際は2年目勝負というところが本音。吉田はチームに枯渇している左投手だが、柔らかさにパワーを備えた打撃、意外に反応が鋭い外野守備を見れば、外野手として育てたい。この二人の存在が、どこまでファームに喝を入れられるか。特に永川のスケールは今の広島の若手投手の中でも図抜けた存在。刺激を与える意味でも永川の一年目はファームで鍛えてもいい気がする。



 好守と強打のイメージがある野手だが、そろそろ全般的にテコ入れが本格化していい時期。外野は主砲の金本がFAで阪神に移籍し、緒方、前田の耐用年数は現実的なカウントダウンに入っている。今まで不動のレギュラーだった3人のスケールを考えれば、廣瀬、朝山、森笠といった候補の力不足は否応無く付きつけられる。浅井や町田を恐怖のスーパーサブと考えれば、鞘師の加入はチーム事情にピッタリ。高い次元で備えた肩と守備力、そして先の塁を貪欲に狙う走塁レベルは、まさしく広島のチームカラーそのもの。粗さの残る打撃が課題だが、江藤や新井を長距離砲として一人立ちさせた広島のファームで打撃技術を身につければ、近い将来緒方レベルの外野手に化ける資質を秘めている。

 内野もテコ入れが必要だが、指名選手はゼロ。三塁の新井は打者として大成しつつあるが東出と共に17失策はリーグ最多。木村拓も相変わらず内外野守備位置が安定せず、ディアスは年俸で折り合わず退団。野村に頼るのは論外として、シーズン終盤は代走職人の福地がスタメン二塁に名を連ねるなど、ポジションはかなり流動的になっている。

 アジア大会出場の栗原に大化けの気配があり、一塁に回る新井と超大型の和製一塁〜三塁ラインが形成できそうなのは好材料だが、井生、松本、甲斐、石橋という辺りに芽が出る気配がなく、エリート候補生である東出のレギュラー特権剥奪が現実味を帯びている現状、内野手の指名ゼロはどう考えても不可解。

 吉村裕基(東福岡→横浜5巡目)、千代永大輔(九州学院)は下位指名でも獲得できた逸材で、広島にとって準地元の九州選手。永川に地元の目線を向けるなら、こういった視野の広げ方もするべきではなかったか。かつては野球所だった広島だったが、地元の利を全面的に享受できるほど今の中国地区は戦力が整っていない。

 地元でめぼしい選手がいないから指名から降りるという根性は、フランチャイズ意識ではなくただの視野狭窄。地元とのパイプの強さを、他の地域を軽視するような態度にしてしまうのは、実際問題いかがなのものかと思うのだが。



広 島
自由 永川 勝浩 投 手 亜細亜大 右右 187・81 高校時(新庄)から140kmを計時する本格派右腕だったが、亜大での4年間で150kmを越すレベルまで急成長。いかにもゴツい威力のストレートで押してくる豪腕型で、深く挟んで抜くフォークは魔球の落差。
2巡 吉田 圭 外野手 帝京 左左 186・82 リストの強さと柔らかさあり、どの方向にも強い打球を飛ばせる技術は高校レベルを超えている。投げてもサイドから138kmの打ちにくい球筋。投手指名のようだが、野手の方が伸びる気が……。
4巡 鞘師 智也 外野手 東海大 右右 183・78 走力や肩、守備範囲はすでにプロでも上位に位置し、特に中堅から両翼へのカバーリングの速さに見応えがある。下半身のバネが柔らかく、鋭い変化球にも膝をうまく送って拾える巧さあり。
5巡 松本 高明 外野手 帝京 右左 177・70 50mを5秒台で走る足が最大の武器で、単なる快速小僧なだけではなく走塁自体の勘がいい。外野からピュッと刺してくるスローイングも魅力。
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