DEAD OR BASEBALL!

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Vol.106 2002年ドラフト総括(阪神編)
2002年11月23日(土)

 今年のオフシーズンの先陣を切ったのは阪神だった。投手を中心にベテランを大量に退団させ、一気にチームの体質を変えようとした阪神の粛清。これは球団の大ナタと言うよりも、星野監督の大ナタと言った方がいいかも知れない。星野は動く時はとことん動くタイプの監督だからだ。

 今年のドラフトでは12球団最多の11名を指名したが、出した選手が多ければ入れる選手も多くなるのは当然で、それ自体に不自然さはない。しかし、トータルで見ればあまりにチグハグな感が拭えないドラフトであったのも確か。



 福原の長期離脱、伊達のトレード、バルデスの解雇と、リリーフ陣に手痛い要素があるのは確か。しかし、先発に目を向ければ長期安定型の陣営が整いつつあるのが現在の阪神。24歳の井川が絶対的な軸として君臨し、藤田24歳、藤川23歳、安藤26歳が揃って今年プロ初勝利を挙げ来期に向けて虎視眈々。これに藪、ムーア、川尻のベテラン勢が程よく加われば、若手主体にかなりの先発陣が形成できる算段。ベテラン投手の大量解雇は別に不思議なことではないという結論に達する。

 金澤24歳、加藤20歳まで加えて考えれば、12球団屈指の若さに溢れた投手陣に化ける可能性を秘めている。井川という投手の一人立ちが、この若手主体の好循環を生み出した要因になっていることは疑い様がない。

 こういう若手が台頭している状態で必要な投手は、即戦力ではなく将来性豊かな高校生。しかし実際の指名は大学・社会人の選手に偏り過ぎている。高校生投手の指名は田村ただ1人。11人も指名しておいてこの結果は、阪神があまりにも目先にばかり捕われ過ぎている現状をはっきり物語る。

 今オフにペタジーニの獲得に乗り出したり、FAで金本を獲得し中村にも食指を伸ばそうとする状況も同じ。一言で言えば、1年先しか見据えず汲々とした状態。少なくとも今の阪神に必要なのは、杉山や江草といった即効性の戦力ではない。中継ぎ左腕を大量に解雇したから左腕を5人も獲ったのだろうが、解雇した選手と同じ役割をドラフト補強に求めることが、本当にチームの強化になるのか。そういうことを真剣に考えるべきだ。端的に言って、戦力編成に対して横着になり過ぎている。

 長峰昌司(水戸商→中日5巡目)は、井川と同じ高校出身の大型左腕で、井川とのサウスポーコンビはチームの売りになった筈。投手に関しては、こういう将来を見据えた補強を考えるべきだったと思う。溝口大樹(戸畑商→ダイエー4巡目)も欲しかったところ。繰り返すが、今の阪神に必要な投手は即戦力ではなく高校生。



 野手に目を向ければ、完全に端境期に入ったなというのが率直な印象。規定打席到達者は今岡、桧山、アリアス、片岡の4人だが、その中で.300を超えたのは唯一の20歳台である今岡だけ。濱中、矢野は.300を超えたが故障離脱で規定打席に届かず、赤星も右肩下がりの成績。故障者が続出した途端にチームの成績も雪崩を打ったように下落したが、これはまだ阪神に磐石の強さがなかったことの証明。遊撃のポジションを争った藤本、斉藤、沖原、田中といった辺りも帯に短し襷に長しで、一言で言えば地力がまだない。

 とは言え、6年目の関本がここにきて打力で遊撃のポジションを奪えるまでに成長し、ファームに目を向ければ、新井、桜井、喜田という長距離砲候補が着実に成長している。濱中も来期は主軸の自覚を持つレベルまできたし、赤星のセンターは阪神にとって欠かせない戦力。磐石ではないが面白いというのが現状の阪神で、近い将来の爆発力は期待していいレベル。金本や中村の獲得に乗り出したことは、そういう機運に冷水をぶっかけるようなもの。

 金本が左翼に入れば、赤星か桧山が自動的に余剰戦力になる。そういう無駄な補強をしているから、今度は昨年ゴールデングラブ賞の赤星を遊撃にコンバートするというバカな話が現実味を帯びてくる。無駄が無駄を招き、そういう無駄は新井、桜井、喜田、狩野の抜擢時期を確実に遅らせる。生え抜きの選手を使う機会がどんどん奪われ、中村のFA移籍が現実のものになれば、まさしく無駄のデフレスパイラル。数年前の巨人と何も変わらない状況になる。

 阪神に絶対的に不足しているのは、生え抜きの和製大砲と、矢野の穴を埋められなかった捕手。特に大砲は濱中がようやく一本立ちしたが、濱中一人では全然足りない。丁度良いことに阪神のファームは3年ぶりの優勝を果たし、若手の育成に関しての勢いはある。ここに長距離砲の資質を持った高校生をガンガン送り込んで、空いたポジションを賭けてどんどん実戦の中で競わせていく。こういう底上げを補強と言うのであって、少なくとも昨年FA移籍の片岡や32本塁打のアリアスが1年で余剰戦力になるような補強は補強と呼べない。異常の一言に尽きる補強戦略は、長嶋前巨人監督の「欲しい欲しい病」を想起させる。

 候補は桜井好実(砺波工→中日3巡目)、瀬間仲ノルベルト(日章学園→中日7巡目)、坂口智隆(神戸国際大付→近鉄1巡目)、山本光将(熊本工→巨人5巡目)、池田剛基(鵡川→日本ハム7巡目)辺りの指名組以外にも、瑞慶山浩士(所沢商)、川本竜二(創成館)、三澤慶幸(日本航空)など逸材がズラリ。松下1人ではとても足りない。

 昨年の野村→星野の電撃的な監督交代や、ペタジーニ・金本・中村の総獲り計画、そして即戦力と左腕投手に偏った今年の極端なドラフトを見ると、一言で言って焦り過ぎという印象の阪神。若手主体の戦力編成にシフトする下地は整いつつあるのだから、目先の10円を追っかけずに長期的な視野でじっくりとチーム作りに取り掛かるべきだと思うのだが。                                                                    



阪 神
自由 杉山 直久 投 手 龍谷大 右右 180・71 ヒジのしなりが抜群に柔らかく、鋭い腕の振りから繰り出される150kmストレートは糸を引くように伸びてくる。打者の目からは消えるスライダーも強烈な武器。
江草 仁貴 投 手 専修大 左左 178・80 145kmのストレートは上背の割に角度と馬力を感じる。縦に鋭く切れ込むカーブとフォークはプロ相手でも腰を砕く魔球。春季2部で5戦全勝し、1部昇格に大貢献。
4巡 中村 泰広 投 手 IBM野州 左左 175・70 ストレートは140km台前半と驚く程の速さはないものの、クセ球でボールはドーンとミットを叩く力強さがある。コントロールが良く自分から崩れないので、プロでは中継ぎ向き。
5巡 久保田 智之 投 手 常磐大 右右 180・84 高校時(滑川)は甲子園でも捕手からリリーフにまわり、脚光を浴びた。トルネード投法から繰り出される角度ある153kmストレートに大きく滑るスライダーが武器で、低目に集める制球力も悪くない。
6巡 三東 洋 投 手 ヤマハ 左左 180・75 駒沢大時代は肩とヒジの故障で泣かされ続けてきたが、故障を完治させ社会人入りして大きく花開いた。バネの効いた鋭い腕の振りから威力ある145kmストレートは勢い十分。
7巡 林 威助 外野手 近畿大 左左 178・78 俊足と抜群の打撃センスを併せ持つプロ級のスラッガーで、スイングの速さと思い切りが持ち味。1年春季に首位打者を獲得しているが、それ以来下降線。故障の治り次第で大化けも。
8巡 田村 領平 投 手 市立和歌山商 左左 178・80 体重移動にまだ粗さが残るが、それで146kmを投げられる身体能力は非凡。制球力もまだまだ未熟だが、それもこれも含めてこれから覚えればいいこと。左腕で145以上投げる高校生ならそれだけで希少価値。
9巡 新井 智 投 手 ローソン 左左 178・76 きれいにまとまったフォームから140km台中盤のキレで勝負する。右打者へのクロスファイヤーが持ち味。
10巡 伊代野 貴照 投 手 ローソン 右右 180・76 休部するローソンからのテスト入団。140km台中盤のキレ味あるストレートをサイドスローから放つ。
11巡 萱島 大介 遊撃手 ローソン 右左 180・75 伊代野同様に休部するローソンからテスト入団。俊足と守備力が持ち味。
12巡 松下 圭太 外野手 三瓶 左左 178・78 四国の高校生トップクラスの長距離砲。開かない打ち方ができているからこそ打球が伸びる。早いカウントからガンガン振ってくる積極性も買える。
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