一言で言って、かなり意欲的な指名を行った今年の中日のドラフト。「若い血を入れる」という明確なテーマを掲げ、思いきった指名を重ねた。これは中日スカウトがかなり腹をくくった態度で今年のドラフトに臨んだということだ。 野口、中里を欠いてシーズンスタート。開幕投手の山本も一軍と二軍を往復するなど、決して順風でない投手陣で開幕しながら、最終的にAクラスを確保した中日。矛盾しているようだが、この成績を支えたのはひとえに投手陣の踏ん張りの賜物。 98年の新人王川上が、巨人・桑田と最後まで最優秀防御率を争って12勝、3年目の朝倉は200イニング以上を投げるタフネスぶりで11勝と両輪になった。これに新人の山井が6勝と準ローテーション投手に成長し、小笠原も前半の苦しい台所事情を支えた。岩瀬、落合、正津らで形成する中継ぎは今年も磐石で、ギャラードも見事なクローザーぶりを発揮。阪神から移籍するバルデスや中継ぎで結果を残した山北、故障からの復活を期す中里という名前を含めて考えれば、小山や洗平の伸び悩み、バンチの退団はあるものの、中日の投手陣には大いに勢いと若さを感じる。 この流れは大事にしたい。今年のドラフトでは「松坂世代」と呼ばれる大学生投手に逸材が揃い、12名の大学生選手が自由枠を行使した。しかし中日が狙うべきなのは高校生。若い力がみなぎっている今こそ、即戦力補強に頼るのではなく将来性豊かな高校生を片っ端から獲得すべき。朝倉を3年で一人立ちさせた指導力も、若さ導入の機運を盛り上げる。 中日も当初は自由枠競争に参戦していたが、皮肉にもことごとく競争に敗れた。これは逆に幸と捉えたい。大学生に逸材が揃ったということは、高校生の指名に関しては空き家も同然ということ。大学生に頼らなくてもいい今の中日投手陣の顔触れを考えれば、徹底的に高校生に照準を絞るべき。それを今年の中日フロントは、結果的に実践したことになる。 投手の指名は植、小林の大学生に、長峰という高校生で計3人。植、小林はタイプとしてはリリーフで、これは先発陣よりも高齢化の進む中継ぎ強化を睨んだもの。長峰はまさしく未完の大器だが、そういう投手を育て上げるだけの時間的猶予はある。 意欲を感じるのは、森岡、桜井、瀬間仲という高校生野手の逸材を片っ端から獲得したこと。中日のアキレス権は一にも二にも攻撃力で、特に長距離砲が育っていない。こういう現状なら本来は即戦力のスラッガーに目が向きそうなものだが、これだけ高校生を獲得するとかえって信念が見えてくる。 今の中日野手陣で安泰なのは、捕手(谷繁)、二塁手(荒木)、遊撃手(井端)、三塁手(立浪)、右翼手(福留)の5人。その中で20歳台は荒木26歳、福留26歳、井端28歳のみ。それなりのメンバーだが、外国人を入れないと中軸が足りない 福留は見事な成長を遂げて首位打者獲得、不動の三番打者になったが、その後ろの打者が見事に抜けている。立浪は90打点以上を叩き出し健在をアピールしたが、34歳という年齢は本気で後継を探す時期にきている。候補は森野、幕田、森といるが、いつまで経っても「期待の戦力」から脱せないことを考えれば、いい加減に次代の大砲が欲しい。 救いは福留に26歳という年齢的余裕があることで、これは福留とクリーンナップを組むパワーヒッターに若い選手が座れば、向こう6、7年は中軸に難儀しなくて済むということ。福留は30歳の大台までまだ時間的猶予がある。それまでに耐用年数の長い日本人クリーンナップを確立したいところ。 森岡と瀬間仲は、高校生だが極めて即戦力に近い存在。森岡の守備力はプロの巧い遊撃手と遜色ないレベルで、細身ながらフォロースルーで打球を飛ばすツボを知っている生粋の天才肌。瀬間仲は外国人登録がネックになるが、変化球打ちのタイミングで直球に対応する技術を習得すれば、長くプロの4番を張れる超逸材。桜井は将来性を睨んでの獲得だが、ただの力持ちではない器用さをもっており、打撃センスとパワーは山崎の全盛期クラスまで伸びる可能性を秘めている。 プロのフロントが最も獲りたくないのが、高校生野手。それも長距離タイプの野手は、素材そのものも少ないがとにかく獲りたがらない。モノになるまでに時間がかかる上に、モノになる確率も投手や器用なタイプの野手に比べて低いからだ。その高校生大物野手を3人まとめてかっさらった今年の中日。意欲的だというのは、そういうことである。 ファームに目を向ければ、土谷、仲澤、前田とチャンスメーカーは揃っている。彼らがまとめて目を覚ますのは2〜3年後。その頃投手陣はまだ磐石の年齢編成でいける計算。数年後の大規模な地殻変動を現実的に予想させる、そんなドラフトだったと思う。
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