月の輪通信 日々の想い
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バレンタインデーが近い。 数日前からアプコが 「ねぇ、おかあさん、今年はチョコレート、作りたいんだけど」 とうるさい。 いつもは近くのスーパーやお菓子屋で可愛い包装済みのチョコを買って来て父さんやオニイたちに配る程度が定例なのだけれど。 今年は、お葬式やら父さんの個展やら何かと忙しかったし、いつも指揮を執ってくれるアユコも受験生ということでバレンタインは自粛するらしい。 何となく気乗りがしなくて、ズルズルとおざなりに聞き流していたのだけれど。
「あのね、チョコ、作って、あげよっかなって思ってる子がいるの」 え?え? 何ですと? 「クラスの女の子達、結構みんな男の子にチョコあげるみたい。Tちゃんなんか2,3人で集まって男の子の家まで直接持っていくんだってよ。」 はぁ。 近頃の3年生はおませですな。 で、アプコは誰にあげたいの? 「んー。名前は言わない。その子、あたしのこと好きやねんて。まわりの人がみんなそういうねん。」 ふむふむ、噂のカップルというわけですな。 それで?アプコもその子のこと好きなん? 「いっつもよくしゃべってるし、おもしろい子やねん。」 それって、ラブラブ? 「う〜ん、違う。友だち。」
「ねえねえ、ラブラブと友だちはどこが違うの?」 だんだん楽しくなってきた母が、アプコに食い下がる。 「いっつも一緒に居るのがラブラブ。時々お話しするのが友だち。」 「あら、そう。じゃ、遠く離れて住む遠距離恋愛はラブラブじゃないの?」 「あ、そっか。」 考え込むアプコ。 「わかった!おしゃべりしてて、ドキドキするのがラブラブ。普通に喋って楽しいのが友だち!」 「ほう、ずいぶん考えたね。ドキドキか。いいねぇ。」 と、感心していたら 「あ、でもね、ラブラブでも、結婚したら普通に喋ってもドキドキしなくなるんだよ。」 と慌てて付け足すアプコ。 「あらそう?そうなの? おかあさんは結婚してるけど、まだ時々お父さんにドキドキするんだけどな。」 といったら、アプコ、キャッキャと笑って止まらなくなった。
「ラブラブ」だとか「ドキドキ」だとか、そういう言葉を口にするだけで嬉しくなっちゃうお年頃。 バレンタインのチョコレートも、3年生の女の子達にとっては楽しい遊びの延長なのだろう。 ラブラブと友だちの境界も、彼女らなりのものさしでちゃんと振り分けているらしいところがなんとも可愛い。
「ねぇ、アプコ。 今年はやっぱり手作りチョコはやめておこうよ。 アプコが初めて作る手作りチョコは、やっぱり初めてラブラブのドキドキになった男の子にあげたいじゃん。 そう思わん?」
うふふ、手作りチョコ回避の決定打。 首尾よく成功。
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