月の輪通信 日々の想い
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夜剣道。 早めの夕食をあわただしく詰め込み、ゲンを車で道場まで送る。 6時半からの子ども稽古、8時からの大人稽古。9時まで2時間半、ぶっとしの稽古に休まず通いつめるゲン。 残暑厳しい今の季節、稽古を終えると分厚い剣道着は汗を吸ってじっとりと重く、それでもまだゲンの短い髪から顎にかけて、玉の汗がじわりじわりじわりと流れ落ちたりする。 頑張っている、ゲン。
ゲンが車の中で話してくれたこと。
ゲンの友達のO君は4人兄弟。 もうすぐ5人目の弟か妹が生まれるらしい。 小さな賃貸マンションに住んでいて、「7人家族になったら、あの家じゃきついだろうなぁ。」とゲンが要らぬ心配をしている。
O君は忙しい両親に代わって、弟妹たちの面倒もよく見ていて、放課後は保育所に幼い妹をむかえにいって連れて帰って来るんだそうだ。簡単な料理もできて、両親がいないときは自分で晩ご飯を作って、弟妹たちに食べさせることもあるらしい。 中学に入って入部したラグビー部も、練習時間が長くて家の用事をするのに差し障るからと1学期で退部したのだそうだ。 「あいつ、偉いなぁ。家のことは何でもやって、弟妹たちの面倒も見て・・・。」
ゲンはその話のときに、小学校での友達のA君のことを話してくれた。 Aくんの家は大きなお屋敷で、Aくんの部屋は「うちのリビングと台所をくっつけたくらい」広い。大きなベッドを置いても部屋の中でプロレスができそうなんだそうだ。 比べて、O君ちは、6畳くらいの小さな部屋にOくんと弟の大きな2段ベッドと二つの机がおいてあって、遊びに行ったらベッドの上に座ってゲームをするしかないのだという。 「でもな、何でも持ってるAくんより、O君のほうが僕にはなんだか幸せそうに見える。」 とゲンは言う。
ゲン。 あんただって、よそんちの子と比べたらずいぶんいろんなことを手伝ってくれるし、アプコの面倒もよく見てくれてると思うんだけどな。 焼そばだって、ちゃんと作ってくれるし。 近頃では、部活で留守がちなオニイにかわって、工房の手伝いやちょっとした力仕事やってくれるようになった。 ありがたいと思ってるよとゲンに告げる。
それでもゲンは 「僕な、なんかOくんのこと、尊敬してんねん。」 とまっすぐな目で言う。 中1の少年が、いつもつるんで遊んでいる同級生の友達のことを「尊敬している」と表現できる。 そのこと自体、ゲンも偉いなぁと私は思う。
ゲンにはゲンなりの、堅実な価値観が育ってきているのだろう。 急に背が伸び、声変りが進み、日に日に大人びてくるゲンの成長が頼もしく嬉しく感じられる。
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