月の輪通信 日々の想い
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2007年08月12日(日) 誕生の日

アプコ、誕生日。

朝、普段のお寝坊には珍しく、早く起きてきたアプコが擦り寄ってきて、
「おかあさん、ありがと」とはにかみながら言う。
「?」と、聞き返したら、
「だって、今日はあたしの誕生日やモン。ほら、おかあさん、言うてたヤン」と笑っている。

ちょっと前のこと。
誕生日の何日も前から、「プレゼントには何をもらおう?」「バースディケーキはどこへ買いに行こう?」と、事ある毎にしつこいほど語るアプコに辟易してこんなことを話した。
「あのね、アプコ。
お誕生日が楽しみなことはよくわかるけど、お誕生日は誰かからプレゼントをもらったり、ご馳走を食べたりするためだけにあるのかな?
ゲンにぃはいつも自分の誕生日には、お母さんに『産んでくれてありがとう』って、言ってくれるよ。
お誕生日は、命を授けてくれた神様や家族やまわりの人たちに『ありがとう』の気持ちを伝える日でもあるんじゃないのかなぁ。」
ふうんと納得のいかない顔で聞いていたアプコだけれど、ちゃんと覚えていたんだな。
アプコ、9歳。
賢い子どもに育った。

そんな風に、楽しみに迎えた誕生日の朝なのに、だらだら朝寝を貪って遅く起きてきたオニイ、オネエからは、「おめでとう」の言葉がもらえなかった。部活に、稽古事にと忙しく走り回る中高生達は、幼い妹の誕生日をすっかり忘れてしまっていたらしい。
「でもねぇ、アプコが生まれたのは12日のお昼過ぎだからね。きっとお昼から『おめでとう』って言ってくれるんじゃないの?」
ととりなして、とりあえずアプコのご希望のバースディケーキを買いに出かける。
イチゴのたくさん載ったホールのケーキにするか、それぞれの好みで選ぶとりどりのカットケーキにするか、散々悩んでいるので、
「お誕生日の人だけ、カットケーキ2個ってのはどう?」
というオプションをつけたら、2種類のショートケーキを即座に選んで満足顔。
きっと、夕食のすぐ後のおなかには、2個のショートケーキは入りきらないだろうに。
欲張りだなぁ、アプコ。

ケーキ屋からの帰り道、小さな産婦人科医院のまえを通る。
我が家の5人の子どもたちが生まれた病院だ。
「ほら、アプコの生まれた病院よ。」
と言ったら、「え?うそ!ほんと?」とびっくりしている様子。
何度も何度も車で通ったことのある道。
そのたびに子どもたちには、「ここがあなたたちのうまれた病院よ」と教えてきたはずなのに、アプコはそのことを今日の今日まで知らなかったらしい。
考えてみれば、アプコ以外の上の子達は、自分より下の兄弟の誕生のときにこの病院を訪れたことがあって、「あなたがうまれたときにはね・・・」と自分の誕生のときのことを聞かされて育っているはず。
当然のことながら末っ子姫のアプコだけ、そういう経験がないまま、大きくなってしまったということだろう。

「ねぇ、アタシが生まれたとき、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちもここへ来たの?」
と訊くので、アプコの誕生の日のことをぽつぽつと話した。
アプコの生まれる日の朝、ベランダの朝顔が満開だったこと。
だから、アプコの名前は、朝顔の「あさみ」なのだということ。
早くから帝王切開が決まっていたので、アプコの誕生する日は産婦人科の先生と相談して決めたこと。
アプコの生まれる2年前、アプコのお姉さんに当たる小さな赤ちゃんが、生まれて3ヶ月足らずで亡くなっていた事。
そして、亡くなった赤ちゃんの代わりに生まれてくるアプコのことを、家族みんなが楽しみに待ち望んでいたこと。

「アプコは末っ子だから、兄弟みんなに迎えられて生まれてきたんやね。
末っ子って、幸せやねぇ」
今朝のオニイオネエはアプコの誕生日をすっかり忘れていたみたいだけれど、あの日、幼いお兄ちゃんお姉ちゃんたちは確かに、ワクワクドキドキしながら新しい赤ちゃんの到来を指折り数えて待ち望んでいた。
もちろん、お父さんも、お母さんも・・・。

あれこれ話しながら運転していて、大きな交差点で信号待ち。
じわじわと湧いてきてしまう涙をアプコにばれない様に手の甲でぬぐう。
アプコの生まれた日。
あの日もこんな風に暑くて日差しのまぶしい一日だった。
アプコ、お誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう。


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