月の輪通信 日々の想い
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2007年06月13日(水) 髪を結う

朝、週一回のデイサービスに出かけるひいばあちゃんの髪を結う。
いつもの定位置で熱心にTVを見ているひいばあちゃんに、「髪結いさんがきましたよ。」と声をかける。
長年きゅっと結い上げていたために、すっかり薄くなってしまったひいばあちゃんの白髪を、ブラシで掻き上げ、ゴムで結い、くるりとねじって小さなお団子にし、Uピンとヘアピンを何本も差して纏め上げる。
「はい、出来上がりました。べっぴんさん」と、わずかながら聞こえるほうの耳のそばで言うと、今まで眠っておられるのかと思っていたひいばあちゃんが「はい、おおきに」と笑って答えてくださる。

このところ、怒涛の日々だった。
義父の転倒、入院。
先月末のお茶会。
義父の退院と入れ替わりに、義母の体調不良、入院。
そして、父さんの襲名展。
工房の仕事と2件分の家事、子どもたちの学校行事。
せかせかと走り回り、あっちの仕事こっちの用事をやっつけ、ブイブイ愚痴をいい、泥のように眠る毎日だった。
ようやく父さんの襲名展をおえ、ゆるゆると普通の日常が戻りつつある。
今週末には義母の退院も決まった。
まだまだ完快というわけではないので、年寄り世帯の家事や介護の負担は減るんだか増えるんだか。
じわじわと背中に重いものを感じながら、今日も惑い歩く。

毎年、5月のお茶会の前には、1年間伸ばしっぱなしの髪をばっさりと短くしてくるのがここ何年かの習慣だった。ところが今年はお茶会の準備や工房仕事に追われ、とうとう美容院に行く機会を逃した。
苦し紛れに伸びきった髪を固く結び、くるくる巻いて高く留めた。父さんが誕生祝にとこっそり作って贈ってくれた月夜の風景を刻んだ陶のバレッタで結い上げたお団子を飾る。
きゅうきゅうと固く結った髪型はぼんやり主婦の穏やかな日常には不似合いだったけれど、工房仕事に家事にと忙しく飛び回るには、とりあえず機能的で都合がいい。ひいばあちゃんに倣って、昔懐かしいUピンを買ってきて、束ねたお団子にグサグサ挿した。
気がつけばそれは、ひいばあちゃんとおんなじ髪型。
黙々と、ひたすら工房の職人仕事をしながら窯の火を支えてきた、明治の人の気概をも倣わなければとしみじみ思う。




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