月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
朝、アプコとともに、登校班の集合場所への道を下る。 新緑の道は晴れ晴れとして、気持ちのよい風が吹いているのだけれど、この間から大量発生中の青虫毛虫がそこここにぶら下がっているので、注意深くひょいひょいと避けながらの下り坂。
昨夜、おじいちゃんちの犬のコロの突然の死に、アプコはわんわんと声を上げて泣いた。おじいちゃんと一緒に散歩をさせたり、「お座り」や「待て」を教えたりして、アプコもとても可愛がっていた犬だった。 泣きながらコロの名を呼び続けるアプコに、私は「生きてるものはみんないつか死んじゃうものだから」とか「お星様になるんだよ」とか、お決まりの慰めを言うことが出来なかった。 ついさっきまで元気に餌を食べていた犬が、急にあっけなく動かなくなってしまうということの不条理が、私自身、すぐには消化し切れなかったためだろうか。 アプコは、たくさんたくさん泣いて、「あたし、生まれてはじめて。こんなに泣いたのは・・・」と、真っ赤に腫れたまぶたを冷やしながら眠った。
そうして今朝。 コロのことは忘れてしまったかのように、爽やかに目覚めたアプコ。 「ひゃぁ、こんなトコにも毛虫!」 と、いつもの笑顔でピョンピョン跳ねながら坂道を下っていく。
「あたしねぇ、考えたんだけどね、おかあさん。」 くるりと振り返ったアプコが言う。 「コロが死んでたくさん泣いたけど、ホントは一番悲しいのはおじいちゃんよね。おじいちゃん、とってもコロをかわいがってたし、おじいちゃんの犬だもん。」 「そだね、おじいちゃん、病院から帰ってきてもコロがいないから寂しいだろうね。」 「おじいちゃん、かわいそうね。」 と、今度はおじいちゃんのために顔を曇らせてうなずく。
「おかあさん、あたし、これからコロの分まで頑張らなあかんなぁ。」 と、急にアプコが大きな声で言ったので、 「『コロの分』って、何の事かな? アプコがコロの代りに『待て』とか『お座り』とか、練習するのぉ?」 と訊いて、アプコを笑わせる。 「違うよぉ!あたし、練習しなくてもできるもん!」 と、まともに切り返して笑うアプコ。 良かった。 アプコもコロのことを笑ってお話しすることができるようになった。
それにしても、アプコ、昨日わんわん泣いていたときには、まだまだ幼いチビちゃんに見えたのに、ずいぶん大人びたことが言えるようになったなぁ。 自分の悲しみばかりでなく、おじいちゃんの悲しみを思いやって、自分がどうすればおじいちゃんの傷心を慰められるか、一生懸命考える。 そんな優しいいたわりの気持ちが、ちゃんと育ってきているということだろう。 なんだかとってもいとおしくて、駆けていくアプコの背中を追っていってぎゅうっと抱きしめてしまいたい気持ちになる。 「わぁ、遅くなっちゃう!」 と走り出すアプコの足は思いがけず速くなって、重たい体でモタモタあとを追う母にはなかなか追いつくことのできないスピードになってはいるけれど。
|