月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
朝から工房であわただしく仕事。 数物のお皿の釉薬掛け。新しい釉薬の調合。 来月末の窯元でのお茶会とそれに続く地元百貨店での襲名展に向けての作品作りに、父さんは相変わらず追われている。 パート職人の私も、最近新しい作業を一つ二つ覚えた。 いずれも昔はひいばあちゃんが一人でコツコツ行っていた下職(したじょく)仕事。少しでも早く要領よく仕上げられるようになりたいと思う。
午後の作業からふと顔を上げると、はやアプコの下校時間。 パタパタとエプロンをはずして、迎えに出る。 1,2年生の時には、毎日決められた下校時間に合わせて学校の近くまで迎えに行くようにしていたが、3年生になってそろそろ一人で登下校を・・・と言うことで、最近は途中の道で行き会うように少し遅めに迎えに出るようになった。 新緑の坂道を下っていくと、ずっと先のほうからピョンピョン跳ねるように上がってくるアプコの姿が見える。 朝着ていった上着を腰に縛り、Tシャツの袖をひじまで捲って、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、気ままに歩いてくるアプコ。 遠くから私の姿を見つけると、「おっ!」と立ち止まって、タッタカタッタカ駆け寄ってくる。足音は、まだまだパタパタと子どもっぽくて、その幼さがいとおしい。
「おかあさん!」 すぐそばまで駆け寄ってきたアプコが、突然校帽の中のものを私に向けてぱっと宙に放った。 ハラハラと舞う花吹雪。 駅前で満開の八重の桜を拾ってきたのだろう。校帽をお碗のように空にむけて受けたまま歩いていたのは、拾った花びらがいっぱい入っていたから。 私に散々振りかけても、まだ校帽の中には砂混じりの花びらがたくさん入っていて、アプコは楽しげにそれを道路や水路にパラパラと撒き散らしながらゆっくりと歩き始めた。
「今日はね、音楽の授業もあったしね。」 「えっとね、今度の遠足はまた、うちのお山に登るんだってよ。」 「給食のカレーうどん、すっごく美味しくってね、お代わりしようと思って大急ぎでパン食べたんだけど、ちょっと遅くってあたしの前の人で終わりになっちゃった。残念!」
アプコの毎日は、一日一日驚きと喜びに満ちている。 学校での楽しい時間を終えて、「セルフ花吹雪」を一人でたのしみながら帰って来るアプコ。 そういえば先日は、音楽の教科書をパタパタ振りながら、大きな声で「春の小川」を独唱しながら帰ってきた。 「お母さんのお迎え」を卒業して、ひとりでたどる家路にも、楽しい遊びがそこここに見つかるのだろう。
パラパラと風に踊って、アプコの手を離れていく淡いピンクの花吹雪。 それは母の手元からいつの間にか飛び立っていく、幼いアプコの気まぐれにも似て。
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