月の輪通信 日々の想い
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襲名展が終わって、ゆるゆるとお仕事態勢に戻りつつある父さん。 珍しくロクロ仕事に入ったようだ。 制作しているのは、注文のあった数茶碗。 同じ形の抹茶茶碗を次々にひねり出す。 普段は手びねりで作ることが多いので、父さんの仕事場で水引きロクロが稼動していることは珍しい。 おばあちゃんちへ遊びに行っていたアプコが、工房にもぐりこんで興味しんしんで父さんの仕事振りを眺めていたらしい。
台所で夕食の支度をしながら、アプコのおしゃべりを聴く。 「あのね、お父さん、今日はいつもと違うお仕事してた。 こないだ、オニイちゃんがやってたアレよ。ぐるぐる回しながら、作るやつ。」 「ああ、ロクロ、してたのね。アプコ、見てたの?」 「うん」 ヌルヌルつやつやの土の塊から、あっという間に器の形が立ち上がる。父さんのロクロ仕事は、子どもでなくもついつい見入ってしまう不思議で楽しいパフォーマンス。アプコが息を呑み、父さんの手元を見つめる様子が思い浮かぶ。 「あのね、今日のお父さん、ちょっとかっこイかったよ。 お父さんすごいね。」 そっかそっか。 仕事をしている父さんは、そんなにかっこよかったか。 アプコ、父さんに「かっこイかった」っていってあげな。 きっと父さん、嬉しくてバリバリお茶碗、つくっちゃうぞ。
今朝、父さんは小さく切りそろえた新聞紙に墨で何枚も絵を描いていた。 数物のお皿に描く松の文様。 あれこれデザインを変えて、何枚も何枚も描き散らす。 描き損じた新聞紙が何枚も仕事場の机の上に積み上げてある。 お昼過ぎ、工房にもぐりこんだアプコが、それを見て父さんに一言。 「納得のいく絵は描けたの?」
・・・・「納得のいく」?! エライ言葉を使えるようになったんだなぁ。
遊びの合間にちょろちょろ工房に出入りして、働く父さんの背中を見るともなしに見聞きして育つアプコ。 何度も何度もやり直し、よりよい作品を目指す父さんの厳しい仕事振りをを、幼いなりに何となく理解できるようになってきたのだろう。 うれしいね、父さん。
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