月の輪通信 日々の想い
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「お母さん、見てみて」 とアプコがところ構わず側転をする。 今度の参観日、「かさこじぞう」の音楽劇をすることになって、3学期になってからずっと練習していたらしいのだけれど、アプコはどうやら「ゆきんこ」の役らしい。 「あのね、ゆきんこの役はね、側転が上手にできる子だけしかできないの。」 跳び箱も鉄棒も大の苦手のアプコ、何故か側転だけは上手にできるらしい。 「私もアプコの年のころには上手にできなかった」なんて、アユコがちょっと得意の鼻をくすぐるようなことを言ったりしたもんだから、アプコはうれしくてたまらない。 学校からの帰り道でも、狭いリビングの床でも、何度も何度も側転をする。 クルリ。 クルリ。 スカートが捲くれて、パンツ丸出し。 ありゃりゃぁ・・・。
この間、アプコが困った顔でやってきた。 九九のカードをなくしたという。 「トレーナーのポケットに入れて帰ってきた筈なのに、無くなってるの。今日、九九カードが宿題なんだけど、どうしよう。」 2学期からずっと使っている九九カード。ずいぶん苦労したけれど、もう、九九は大体覚えてしまって、カードの助けは要らなくなって来ているのだけれど、学校ではまだ復習のために九九カードの練習の宿題が出る。 困ったなぁ。 「あっちこっちで、側転やってるから、きっとポケットから落ちたんでしょう。駄目ねぇ。ちゃんとランドセルに仕舞って帰ってこなきゃ」 とついつい小言がでる。 しょうがないので、100円ショップで単語カードを買って来た。膨れっ面で一枚ずつカードを書き込むアプコ。全部の九九を書き込むのは思った以上に面倒でぶうぶう文句を言っていた。
翌日、アプコは先生から新しい単語カードを頂いたと喜んで帰ってきた。 先生への連絡帳で 「九九カードありがとうございました。 ところ構わず、側転の練習をしていてどこかで落としてきたらしいです。」 とお礼を書いたら、 「ポケットに入れていつも頑張ってくれているのだと嬉しくなりました。」 というお返事が帰ってきた。
2学期中、九九や繰り上がりの足し算引き算で苦労していたアプコ。 来る日も来る日も、赤ペンで名前を書かれたやり直しプリントを貰ってきて、正直親子ともどもうんざりしていたこともあったのだけれど・・・。 今学期になって、アプコの算数はようやく皆のペースに追いついてきたらしい。100点花丸の着いた答案を持ち帰ってくる事も多くなった。
アプコが皆より遅れて、少しずつ九九をマスターしていく様子を、担任のM先生はきっと心配しながら見守ってくださっていたのだろう。 「九九カードをポケットに入れていて、失くした」と聞いて、「嬉しくなりました」といってくださる先生の眼差しがとても暖かくありがたく思えた。
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