月の輪通信 日々の想い
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個展終えて一週間。 ホッと一息と思いきや、父さんの仕事はまだまだ目白押し。 春の個展の図録やDM用の写真撮りの期日が迫っているらしい。 「少しは休んで・・・」という家族の想いとは裏腹に、父さんの仕事振りはどんどん鬼気迫って追い詰められていく。 夜昼構わず工房にこもり、黙々と土と闘う。 家族の食事の時間にも、なかなか戻ってこなくなり、そのままでは食べることすら忘れてしまいそうなので、埃だらけの仕事場におにぎりやインスタント味噌汁を配達することも増えた。 皆がおきてくる時間に仮眠を取っていたり、皆が寝静まった時間にこそこそと仕事に出て行ったり。 まるでわがまま放題の受験生生活。 嗚呼。
今日は節分。 オニイは朝から部活。 ゲンのたってのリクエストで、恵方巻きはテイクアウトお寿司屋さんの手巻き寿司を買ってきた。 アプコは 「今日は父さん、鬼、やってくれるかなぁ。」 と朝からしきりに気にしていた。いつもなら鬼のお面をつけて、ふざけて子どもたちの豆まきに付き合ってくれる父さん。今年はとてもそんなことを言い出せそうな雰囲気ではない。お気楽極楽のアプコですら、ここ数日の父さんの異常な仕事振りには気がついているのだろう。
夕方、日も暮れた頃になって、オニイからの帰るコール。 「ごめん、ごめん。もっと早く帰るつもりだったんだけど。」 「気にするな。でも、帰ってきたら君が鬼役ね。アプコが待ってるよ。」 今年の鬼役決定。 自転車で息を切らして帰ってきたオニイが、学生服のまま、面をつけて玄関先に立つ。 「早いとこ終わらせてくれ」と突っ立ったまんまの無愛想な鬼にゲンとアプコがと煎り豆を投げる。 キャアキャア飛び跳ねながら、オニイの周りを駆け回るアプコ。 次第に熱中して、力任せに豆をぶつけるゲン。 憮然としたまま弟妹たちの豆を浴び続ける兄。 いい奴だなぁ。
北北西の恵方に向かって、巻き寿司をかじる。 「食べ終わるまで、おしゃべりしちゃだめ」 家族全員が同じ方角を向いてお寿司にかぶりついているのが可笑しくて、笑い上戸のアユコがクスクス、ケラケラ、弾けるように笑う。
福は内。 福は内。 仕事の鬼さんも、今日はおうちで晩御飯。 少し休んでから、仕事に行ってね。
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