月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
クリスマスも終わって、しばし脱力。 早朝暗いうちから工房にこもっている父さん。 部活に出かけるオニイ。 ついつい朝寝坊で、呼んでもなかなか起きてこない子どもたち。 朝ごはんが3交替、4交替制になって、いつまでも片付かないとイライラする私。
「年の瀬で忙しいんだから、いつまでもダラダラしない。 お母さんは仕事に行くから洗濯干しといてね。 朝ごはんもさっさと食べて、後片付けしておくこと。 それからクリスマスの飾りもいいかげんに片付けておいてね。」 工房の手伝いに加えて、年末の買い物、年賀状書き、大掃除。 さっさと片付けてしまいたいこと、子どもたちに手伝ってもらいたいことが山積みだ。それだけにいつまでも朝寝のお布団のぬくもりを貪る子どもたちが癇に障る。 「さっさと起きて働けーっ!」 だんだん声が荒くなる。
ガチャン!という乾いた音と、あ!というアユコの悲鳴が同時だった。 ぷっとふくれたまま、クリスマス飾りの片づけをしていたアユコ。 思いがけず手にしていたものを取り落としたらしい。 それは、よりによって小さなガラス細工がたくさん入った箱。 たくさん割れた音がした。
「ごめんなさい」といったきり、立ち尽くして泣き出すアユコ。 「たくさん割れたの?」 背後で音は聞いたものの、それを自分の目では確かめたくなくて、とがった声でアユコに訊いた。 「うん。」 と小さなアユコの声 胸がどきどきして、悲しくなって、ついつい、言いたくない言葉、言ってはいけない言葉が口から漏れた。 「大事なものなのに・・・。嫌々やってたんじゃないの?」
クリスマスのガラス細工は、私が毎年少しづつ買い集めてきたもの。 サンタクロースが子どもたちに運んでくるプレゼントに混じって、亡くなった次女へのプレゼントとして増やしてきた。 サンタクロースやクリスマスツリー、天使や雪だるま。 キラキラカラフルで、脆くて儚くて美しくて。 この世に縁薄く旅立っていった次女にふさわしいような気がして、毎年どの子よりも先に次女のためのプレゼントを選んだ。 一年にたった一度、あの子のために買うプレゼント。 一年にたった一度、カードに記すあの子の名前。 「今年も、なる姉ちゃんには、ガラスのサンタだ」とアプコが包みを開けて遺影の前に飾るのが毎年のお決まりだ。 高価なものではないけれど、一つ二つと増えてくるのを楽しみに結構大事にしていたものだった。 「壊れてしまったものはしょうがない。 それより早く片付けないと危ないから。 ちゃんと掃除機かけときなさいよ。」 それ以上その場に一緒にいたら、もっと鋭い言葉を吐いてしまいそうな気がして、台所仕事もそこそこに、洗い物で濡れた手を拭きながら家をでた。
工房での仕事を終えて、お昼に帰ってきたときには、割れたガラス細工は小箱に収められ、ふわりとハンカチがかけてあった。 うつむいて涙をぬぐっていたアユコも、今はけろりとしてアプコやゲンと笑っている。 お互いに壊れたガラス細工のことがとてもとても心の中にわだかまっているのに、そのことに触れない。 「ごめんなさい」がいえない。 「もう、いいよ」がいえない。 なんだかなぁ。
深夜、一人になってやっとガラス細工の小箱を開けた。 折れたツリー、欠けた星飾り、竪琴をなくした天使。 接着剤とグルーガンを駆使して、壊れたガラスをつなぎ合わせる。 パズルを組むように砕けたガラス片を組み合わせているうちに、アユコが見落としてしまうそうな小さな小さな破片まで丁寧に拾い集めておいたことが知れた。 涙が出そうになった。 亡くなった次女とは、ほんの数分しか触れ合ったことのないアユコ。 それでもアユコにとって、あの子は大事な妹だったのだなぁ。
長い時間かかって継ぎ合わせたガラス細工は、野暮ったくて不細工で。 それでも、ひとかけらも棄てることが出来なくて、もう一度小箱に収めてアユコがしたのと同じようにハンカチをふわりとかけておいた。 アユコは今日、つぎはぎだらけのガラス細工を見ただろうか。
|