月の輪通信 日々の想い
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2006年12月21日(木) 留年

ふと気づくと明日は終業式。
年末業務のバタバタと、朝から晩まで家の中に子どもがゴロゴロの日々が、また始まるのだなぁ。
家の窓拭き、毎日の落ち葉掻き、洗濯物干しに、昼食の準備。
せいぜい子どもらに仕事を与えよう。
サンタとの約束にかこつけて。

ひさびさに部活をサボって、明るいうちに帰宅してきたオニイ。
「いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」という。
「悪いほう」と答えたら、化学の答案を見せてくれた。
「からっきし判らなかった」2学期中間。
「頑張ったけどちょっと足りなかった」2学期期末。
つまり欠点だってさ。
冬休みに特別課題を出して、3学期もうチョイ頑張れば何とかなりそうな、ぎりぎりラインらしい。
で、いいほうのニュースは数学。
これも苦手なんだけど、今回は得意分野だったので、とんでもなくいい成績だったんだって。ま、足して2で割ってトントンということだね。

で、もちろん欠点一個で留年って訳じゃなくて、留年は他校へ進学した中学時代のお友達の話。

「かあさん、友達がほぼ留年決定らしいんだ。
僕としてはヤツにしてやれることはなんだろう。」とオニイが真顔で聞く。
その友達、ほとんど学校に行ってなくて、出席日数も足りないし、テストもまともな点は取ってない。
昼間はなじみのゲームショップに入りびたりで、家ではネットのゲームにはまっているらしい。そのくせバイクの免許を取りたいとか、女の子と付き合いたいとか、結構それなりに楽しそうなんだけど・・・と言う。

中学のときにも、オニイの友達の中に不登校の子がいて、そのときには「せめてテスト前にノートでも貸してあげたら?」とか、「『お前が来ないとつまらないよ』って、学校へ来易い様に言ってあげたら」とかアドバイスした。
ちょうどオニイ自身も不登校から立ち直ったばかりの時期だったから、その子のことを放っておけなかったのだろう。
友達はまもなく学校へ来るようになり、高校に進学した。
オニイは今度も、私にそんな風な具体的なアドバイスを求めていたのだろうけれど・・・。

「小学校や中学校の時は、みんな向かっている方向は一緒。
元気に登校して、みんなと仲良く遊び、ちゃんと勉強して卒業することが『いいこと』だったけど、これから大人になっていくと『いいこと』の基準はみんな違ってくる。
一日一日が楽しければいいって子もいれば、真面目にコツコツ頑張って夢を掴むのがいいって子もいる。
お金さえ儲かれば何でもやるって大人もいれば、愛のためにはお金も何も要らないって大人もいる。

『ちゃんと学校へ通って、いい成績をとって、卒業する』のは、一般的に言って『いいこと』には違いないけれど、その子にとって一番いいことなのかどうかはわからない。
「頑張って学校へ行けよ」と励ますのもいいけれど、彼が何故学校へ行かないのか、学校へ行かずに何がしたいと思っているのか、留年が決まってどうしようと思っているのか、多分今の君にはわからないだろう。

中学で一緒に机を並べていた友達が、もしかしたらそのままドロップアウトしていくかもしれない。何とかしてやりたいと思う君の気持ちは良くわかる。
でも冷たいようだけど、それも彼の価値観だ。
君がこうあって欲しいと思う彼と、彼自身がこうありたいと思う彼とは、おんなじじゃないかもしれないんだよ。

そんな話をした。
オニイはちょっと意外そうな顔で私の話を聞いていた。
多分、私の答えがオニイの求めていた答えとは違っていたからだろう。

ほんとうなら、「学校に行くように励ましてあげたら」と促すのがいいんだろう。「友達なら、彼の話をよく聞いて手を貸してあげようよ」といってやるのが良識ある大人のアドバイスってもんだろう。
でも、私はあえてオニイにそう言わない。
いわないけどオニイは、「学校行けよ」とその子に言うだろう。
で、それからどうなるのかなぁ。
その子が更生して、学校へ戻ったら青春ドラマの美談だなぁ。

でも、多分、今のオニイの、幼くて狭い価値観で「学校へ行けよ」といっても、その友達には親や教師の説教と同じにしか響かないだろう。
学校行かずに面白おかしく遊んで過ごしている友達の気持ちは今のオニイには共感できないし、学校という枠から外れて自分の前のレールを失いつつある友達の不安もオニイにはわからない。
そこのところがちゃんとわからないまま、いい子ぶって友達にお説教してもお互いに傷つけあって帰ってくるだけなんじゃないかなぁ。
それに、オニイ自身、変に生真面目でドロップアウトしていくヤツのことが許せない質だから、その友達が自分の忠告にも関わらず崩れていってしまったらきっととても傷つくだろう。

実際のところ、かく言う私自身にもよく理解できないのだ。
「だるいから」という理由で学校へも行かず、留年決定してもへらへら笑って舌を出していられる子どもの気持ち。
子どもが学校へも行かず、日がな一日だらだら遊んで崩れていくのを「しゃあないな」と見捨てておける親の気持ち。
焦らないのかなぁ。心配しないのかなぁ。叱らないのかなぁ。
実際には、その子にもその子の親にも、複雑な葛藤や不安や焦りがいっぱいあるのだろうけれど、オニイからの又聞きで思い描く少年のおぼろげな輪郭の中からは、その胸のうちにあるものの正体を見留めることは出来ない。

結局そこのところがよく理解できてないものだから、私はオニイにも「人それぞれの価値観があるよ」ともっともらしい逃げ道を示しているだけなのかもしれない。
若くまっすぐなオニイには、母の腑抜けなアドバイスはずるい逃げ口上に聞こえていたことだろう。


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