月の輪通信 日々の想い
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2006年11月22日(水) 岸壁の犬

朝、TVのワイドショーを見ていたら、土砂崩れ防止のブロックに入り込んで降りられなくなった野良犬の救出作業の様子が中継されていた。
「たかが野良犬一匹に全国放送生中継なんて馬鹿馬鹿しい」と思ってもいいんだけれど、今にも転落しそうな狭い足場に蹲って悲しそうな声で吼える犬の姿はあまりにも切なくて、ついつい目が離せないでいた。

で、思ったこと。
「たかが野良犬」だって、あんなふうに「困ってるんだ、怖いんだ、助けて欲しいんだ」って悲しい声で鳴けば、「なんとか助けてやれよ」「落ちないように網張ってみたらどうかね」「レスキュー、早く来てくれよ」とたくさんの人が動いてくれる。
いじめとか自殺とか、暗い気持ちで悲しんで、毎日毎日悩んでいる人だって、本気で「嫌なんだ、怖いんだ、死にたくなるんだ。」と大きな声を出したら、「何とかしてやらなくっちゃ」と思って動き始めてくれる人もいるんじゃないのかな。

昨日、小中学校の子どもたちが「文部大臣からのお手紙」を貰ってきた。
文部大臣名でいじめをやってる子、いじめられている子、そして子どもに関わる大人たちに向けての3通の手紙。
ザラ紙に印刷されたいじめ撲滅、自殺防止のメッセージに、アユコは、
「なんか気持ち悪い文章だなぁ」といっていた。
いじめられた子の悲しみ、いじめる子の持つ不安、難しい時代の子育てに試行錯誤する親や教師の迷いを、心で受け止めることなく、通り一遍のことばで書かれた文章のいやらしさは、中学生のアユコにもすぐにそれとわかるのだろう。

「あんなに怖がってるよ。早く助けてやってくれよ。レスキューまだこないのかよ」と苛立った声を上げていた毒舌コメンテーター。
それだってTVカメラ用に用意された作り物のコメントに過ぎないのかもしれない。
けれど、日本中の小中学校で印刷されペラリと子どもたちに配布されたプリントよりも、悲しげな声で吼える痩せた野良犬のほうがよほど誰かの心の琴線に触れることが出来たようで、それはそれで棄てたもんじゃないと思ったりもする。


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