月の輪通信 日々の想い
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2006年11月21日(火) 飯の種

朝、小学校組があわただしく出て行った後、
「んもー!ゲン、また布団上げせずにいっちゃったぁ!」とアユコがぶうぶう。
朝の布団あげはゲンの仕事。寒くなってきて、みんなぎりぎりまでお布団を離れられないから、登校前に布団を上げる時間が足りなくなるのだ。
「いいよいいよ、久しぶりにお天気よさそうだから、お布団干しとくよ。」とアユコを送り出す。

最後に家を出るのはオニイ。
「弁当持った?今日も遅い?」と玄関先で話していたら、下駄箱の取っ手に引っ掛けられたアユコの体操服袋。
今日は参観。これ、ないと困るよね。
「ん、貸してみ」
オニイがアユコの体操服袋をひょいと自分の自転車の前カゴに乗せた。
「多分途中で追いつくやろ。」
あら、すまないねぇというまもなく、オニイはひょいと自転車に跨り、ぐんぐん飛ばして坂を下っていった。
アユコ、優しいオニイがいてよかったね。

今日はアユコの中学の参観懇談。
アユコの学校は今年度になってから「荒れている」と言われている。それまでは市内で一番真面目で穏やかな中学と言われていたのに、急にガタガタと崩れ始めた。
校内でのお菓子などの飲食、授業のざわつき、器物の損壊、抜け出し、校則違反。毎日のようにあちこちで「事件」発生。
PTAも協力して落ち着いた学校環境を取り戻すべく、がんばってはいるのだけれど。

5時間目、社会科の授業。
あれ、いま、チャイム鳴ったんじゃなかったっけ?
授業が始まったはずなのに、まだ立ち歩いてる子がいる。後ろを向いておしゃべりしてる子がいる。机の上に大きなカバンや上着を置いたままの子もいる。教卓にはもう先生が立っていて、授業のプリントを配り始めている。
ザワザワした雰囲気のままで、ダラダラと授業が始まる。
「近頃授業があまり進まなくてツマラナイの」とアユコが言ってたのはこういうことなんだな。
以前はこんな風じゃなかったのに。
それでもまだ、授業中立ち歩いたり、授業を妨害したりする子がいないだけ、まだましか。
こういう状態で毎日授業を進める先生方。
大変だなぁ、ストレス溜まるだろうなぁと思う。

参観後は学年懇談。
学年主任の先生が言われた言葉。

毎日毎日、いろんなこまごまとした問題は起きています。きつく叱ってもそのすぐ後から同じことをやらかす。繰り返し繰り返し叱る。そんな毎日です。中2と言うのは、ある意味そういう年齢でもあるのです。
正直しんどくなることもありますが、むかし先輩の先生に言われたこんなことばを思い出します。
「お前な、こんなやつら(問題生徒)がいなければええのにと思たらいかんぞ。
世の中って言うのは、こんなヤツとかあんなヤツとか、もっとどうしょうもないあんなヤツがいて、成り立ってるんや。そやから面白いんやぞ」
しんどいこともありますが、どの子も大事。
ご家庭にとってはどの子も宝なんやと思って、一人一人の子どもたちに向き合って行きたいと思います。

そのあと、学級懇談で担任の先生が笑いながら話されたこと。

こないだね、アユコ君と二人の時にね、
「クラスの35人がみんなアユコ君みたいな生徒やったら、先生は楽やろうなぁ」と話してたんですわ。
クラス全員が真面目な子ばっかりだったら、今の給料、半分でもええなぁと・・・。
でもね、僕もね、養って行かんならん家族がいます。それには半分の給料じゃ、ちょっときっついなぁと・・・。
そう思たら、毎日毎日生徒を叱るのも、僕の給料のうちです。
いわば子どもらは僕の「飯の種」なんですわ。
そう言うてるうちに、クラスの子達がダラダラやってきてね、
「おらおら、飯の種がきたぞ」とアユコ君と二人で笑ったんです。
さぁ、また頑張って叱るぞってね。

なんとなく、ほっとするいい話だなぁと思う。
学校は荒れているけれど、少なくともこの先生たちは荒れてない。
胸の奥に暖かいものをもったまま、子どもらの学校生活を見守ってくださっている。

「飯の種」
乱暴なことばだけれど、ちょっとあたたかくてお茶目なことば。
「これも仕事だから」という割り切った投げやりなことばとはちょっと違う。一見ぶっきらぼうに見えるK先生は、毎日毎日真正面から子どもたちと向き合って、駆けずり回ってくださっているとても熱心な先生だ。
自分のクラスの生徒たちを「飯の種」と笑う裏側には、一人一人の子を「しゃぁないヤツやなぁ」と温かく見守り、決して見放そうとしない優しさがある。

お話を聞いた保護者の中には、「この期に及んで、何を呑気なこと言ってるの」と物足りない思いを抱いた方もあったようだけれど、先生方がその暖かい眼差しを失ったらそれこそ解決の見込みなし。
こんな先生たちが頑張ってくださる限りはまだまだ大丈夫。
そんな気がした。


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