月の輪通信 日々の想い
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小学校の学級園のサツマイモが収穫時期を迎えた。 学校で焼き芋大会をして、そのあとアプコがお土産用にもらってきたのはでっぷり太った大芋が一個とコロコロ小さなお芋が4つ。 「おかあさんとこどもたちみたい!」とアプコが笑う。 ・・・・それってうちのこと? 悪かったわね、ぷん!
学校帰り、ごろごろお芋を後部座席に積んだまま、直接習字の稽古に向かう。 今月の競書の結果が返ってきていて、私もアユコも「かな」や「硬筆」の段級が少しずつあがった。一人、前回の段級のまま足踏み状態なのはアプコ。 「元気があって、いい字なんだけどねぇ。 2年生になると少しずつ丁寧さとかバランスのよさが評価されるようになるからね。」と先生の談。
一字一字、ゆっくり丁寧に書くアユコと違って、アプコの習字はささっと素早い。鼻歌なんかを歌いながら、気まぐれに筆を走らせ、絵を描くようにちゃちゃっと仕上げる。字の大きさも揃わないし、半紙の枠組みからはみ出しても気にしない。 よく言えば「のびのび」、悪く言えば「奔放」。 子どもの字としては見て楽し良い字だと思うが、素のまんまで丁寧さは感じられない。 そのためか、最近競書の成績は少々伸び悩み気味だ。 先生はそのことを気にして、「ゆっくりね、ていねいにね。」と口をすっぱくして指導してくださるが、気まぐれなアプコはいっこうに気にする気配がない。ちっとも級が上がらなくて、同じ頃に習い始めた同級の子がどんどん昇級していっても「あ、そう」と言うだけで羨むわけでもない。 ふんふんと鼻歌を歌いながら、バンバン書きなぐる。書いてる最中のアプコはとても楽しそうだ。
今日の自由課題は「空」 半紙の真ん中に大きく一文字。 楷書、行書、草書、隷書、篆書。 さまざまな書体のお手本の中から、自分の好きな文字を選んで書く。 アプコのお気に入りは篆書。 絵文字のようなユーモラスな線が楽しいらしい。 珍しく唇を結んで真剣な顔で書いていたアプコが、にっと笑って筆をおいた。 「あのね、これに落書きしていい?」 あんまりうれしそうな顔でいうので、「いいよ、何を書くの?」と先生からお許しが出た。 アプコ、名前書き用の小筆に墨を含ませ、「空」の字の穴かんむりと工の字のあいだにマッチ棒のような人形を一つ。穴かんむりの「儿」の下にタラリと2本の曲線。 「それなぁに?」と聞くと、 「あのね、これ(「工」の部分)が舞台でね、上(穴かんむり)から幕が下がっててね、女の子が歌を歌ってるの!」
はぁ、なるほど。 アプコには篆書の「空」の字がそんな風に見えるんだな。 もしかしたら、お絵かき好きのアプコには他の字もみんな、絵のように見えているのかもしれない。 柔らかな筆の感触を楽しみながら鼻歌交じりに字を書くアプコは、落書き帳にいたずら書きをするような気持ちで習字をしているのかもしれない。
その日の課題を全部書き終えると、いつもアプコは「好きなもの、かいていい?」と余分の半紙をもらって、落書きをする。動物や花の絵をかいたり、好きなお菓子の名前や思いついたことばを書き散らしたり。 絵手紙のような「作品」をさらりと書いて、「お父さんにみせる!」と大事に持って帰ったりする。 アプコにとってお習字は、まだまだ楽しいいたずら描きの延長線上にあるのだろう。 それはそれ。 まだまだたっぷりとお絵かきを楽しむ時間も必要なのだろう。
帰りにスーパーで買い物。 立ち寄った文房具売り場でアプコは面白い色鉛筆を見つけた。 赤黄緑青といろんな色がマーブル状になった芯の入った色鉛筆。 「うわぁ、これって、どんな風に描けるんだろう。」 はじめて見るマーブル色鉛筆にアプコは一目ぼれ。 「行くよ」と促されて一旦食料品売り場に下りたものの、やっぱりさっきの色鉛筆が欲しくて欲しくて、もう一度売り場に戻って、ねだり倒した。 「虹色鉛筆で虹を描いたら、どんな色になるんだろう」 帰りの車中でワクワクドキドキ色鉛筆を握り締めているアプコ。 まだまだ「落書き時代」でいい。 そんな気もする。
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