月の輪通信 日々の想い
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毎日なぁんにも考えていないかのように遊びほうけているアプコにも、近頃ちょっとした悩みがある。 算数の計算。 2年生のアプコの算数は、2桁のくりあがり、くり下がりの足し算。 わら半紙に鉛筆を舐めなめ筆算の式を書いてやる、あれである。 担任のM先生は、子どもたちに毎日のように50問の足し算引き算のプリントを課して、間違いの多かった子には新たに同じプリントを宿題としてお渡しになる。 算数の苦手なアプコはここのところ、このおまけプリントの常連さん。 「おかあさん、ご免。またもらってきちゃった」とうんざりした顔でランドセルを開ける。くしゃくしゃのわら半紙プリントには、「○○さん」と先生の赤ペンで書かれたアプコの名前の横に8とか9とか数字が書かれていて、どうやらそれが、アプコの間違えた問題の数らしい。
目の前でやらせてみると、決してやり方がわかっていないわけじゃない。ゆっくり時間をかけてやれば、たまに間違いもするものの、手順そのものはきちんと理解しているらしいことが見て取れる。 「いつも学校でやるときは、急いでパーッとやっちゃうの。でないと全部は書けないし、遊びにいけないから。」 悪びれずにこたえるアプコ。 「早くやっても間違いだらけでやり直しになってたらしょうがないでしょ?」というのだが、どうもピンとこない様子。ためしに 「20問の問題があるとするでしょ。大急ぎでやって全部答えを書いて10個間違えるのと、ゆっくり丁寧にやって15問しかかけなかったけれど全部正解なのとどっちがいいと思う?」と聞いてみたら 迷わず「全部書けるほう!」と答えが返ってきた。 うわ、この大雑把な性格は誰に似たのだろう。(・・・私です。ごめんなさい。)
昨日晩御飯のとき、アプコはまだ宿題が一つもできていないのにTVを見ていて、アユコやオニイにコンコンと叱られていた。お風呂のあと、ずいぶん遅くまで子ども部屋でガサガサしている音が聞こえていたので、きっとアプコが算数プリントをやっつけているのだろうと思っていた。 今朝、いつものように子どもたちを起こすと、アプコだけが朝食に時間になってもなかなか下りてこない。 「アプコ、起きてた?」と他の子たちに聞くと「宿題やってんじゃない?」という返事。さては、昨晩やらずに途中で寝てしまったな。 ま、平気でやらずにいくよりいいか。 ずいぶん遅くなっておりてきたアプコに宿題できたの?」と聞くと、「うん、いまできたとこ」と明るいお返事。 「昨日のうちにやっとかなきゃダメよ。早くご飯食べなさい。」 といい、アプコがご飯を食べている間にちょっと検算。
・・・おかしい。 全部あってる。 途中の筆算の繰り下がりの数字までちゃんと書いてはあるけれど、時間ぎりぎりにアプコが急いでやったプリントが全問正解のはずがない。 「アプコ、これ、ホントに一人でやったの?だれかに見直ししてもらった?」 「・・・」 「全部正解で偉いけど、なんかズルした?」 「・・・」 アプコのニコニコ顔がみるみる歪む。 「もしかして、前のプリント、写した?」 「・・・」 「全部?」 「・・・」 コックリコックリうなずくアプコ、目玉焼きを前にみるみる小さくなった。
算数の計算が苦手なのはいい。 毎日やり直しプリントをもらってくるのも許せる。 その日のうちに宿題ができなくて、登校前に慌ててやるのも百歩譲っていいことにしよう。 でも、こんな人を騙すズルはいや。 答えを写してズルをして、「宿題できたよ」と涼しい顔してる。 それは先生やお母さんを騙す嘘つきだよ。 アプコのことを大事に思ってる人に対する裏切りだ。 ああ、がっかりした。 お母さんはアプコのことが嫌いになりそうだ。
ちょっと芝居がかった声をだして、わぁわぁ泣き出したアプコにお説教。 そばでみていた父さんやアユコも一緒になってアプコの嘘を糾弾する振りをしてくれて、八方塞りのアプコはただ泣くことしかできない。 登校時間が迫ってきたので、号泣するアプコをランドセルとともに玄関の外に抱え出し、「いってらっしゃい、バイバイね」と締め出してしまう。 外で遅刻を気にして足踏みをして待っていたゲンに「ごめんよ、お願いね」の目配せを送る。 「参ったなぁ、勘弁してよ」とうんざりした表情で大泣きのアプコを連れて歩き出すゲン。 結局、アプコのズルのとばっちりはゲンが一身にひきうける羽目になった。
子どもたちが出て行ってしばらくして、玄関のピンポンが鳴った。 さては帰ってきてしまったかと一瞬思ったけれど、チャイムの主は愛犬の散歩中のKちゃん母だった。 「どうしたぁ?アプコちゃん、わんわん泣いていったぞ。 ゲンにぃとけんかでもしたかぁ?」 アプコの様子に心配してわざわざ散歩中に立ち寄ってくれたらしい。
聞けば、ゲンが先に立ってものすごい勢いで駆け下りてきて、その後ろをアプコがわぁわあ泣きながら追いかけて行ったらしい。 近所の人や通りすがりの人が「どうしたの?」と聞いても、ゲンは「いろいろあるねん!」と不機嫌そうに答えるばかりだったそうだ。 号泣するアプコを連れていると、あたかもお兄ちゃんが妹を泣かしたような目で見られるし、いちいちかまって機嫌を取っていたらアプコは立ち止まって歩かなくなる。 後ろでアプコの泣き声を確認しながら、アプコがついてこれる程度の速度で坂道を駆け下りていくのが、ゲンの最大限の知恵だったのだろう。 悪かったなぁ、ゲン。 「ま、登校班に追いついてからは、女の子たちが慰めたり構ったりしたから、大丈夫とは思うけどね。」 事情を聞いたKちゃん母は、笑って帰っていった。
長くなりましたので、10月18日分日記に続きます。
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