月の輪通信 日々の想い
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秋晴れのいい天気。 朝から張り切って、洗濯物をバンバン干す。 干し物には、夏のカンカン照りもいいけれど、爽やかな風を含んだ秋の日差しもいい。はためくシーツの影が躍っている間をついとトンボが横切って行ったりする。 勢いに乗って、家中をガーガーと掃除機で回る。 休み明けの朝はどうしてこんなにも綿ぼこりがたまっているのだろう。 階段の隅にたまった埃の中には、昨日食べたチップスのかけらやアプコが遊んだ小さなビーズの取りこぼしがかすかに混じる。こどもたちが遊んで食べた名残の綿ぼこりなのだなぁ。 遠くから、小学校の運動会練習の音楽が切れ切れに聞こえてくる。 いい朝だなぁと思う。
「おかあさん、おみやげ!」 と駆けてきたアプコがブンと突き出すのは、ツユクサの花束。 帰り道の道端で摘んできたらしい。 朝、登校の時には瑞々しい朝露を含んで青く輝いて咲いていただろう露草は、アプコが下校してくる時間にはすっかりしぼんで、花の名残をぶら下げた残骸になっている。 コップの水に挿しても、回復するのは青々とした大きな葉っぱばかりで、青い花弁は元の鮮やかさを取り戻すことはない。 何度も何度も花摘みをして、アプコはツユクサの花弁のはかなさはよく知っているはずなのに、それでも懲りずにツユクサの花束を作る。その幼さがいとおしい。 「ありがとね」と言いつつ、受け取った花のないツユクサを食卓に飾る。
昔一度、私は「おかあさんが好きな花よ」とツユクサの名をアプコに教えたことがある。 それだけの理由で、アプコは何度もツユクサを摘む。
父さんの仕事場へ行ったら、小さなコップにここにもツユクサの一枝がさしてあった。 アプコが持ってきて、置いていったのだと言う。 ふと見ると、傍らのスケッチブックに父さんの描きかけのスケッチ。 「そのうち何かの役に立つかと思って」 と、父さんはいたずら描きのスケッチに照れて笑う。 複雑な枝ぶりや滑らかな葉っぱの流線型を正しく写した父さんのスケッチのツユクサには、今はもう干からびてしまった青い花弁が瑞々しい輝きのまま元の姿で咲いている。
父さんには、しぼんだあとの葉っぱばかりの枝に、青い花弁のツユクサの花が見えるのだな。 「おかあさんのために・・・」と夢中で花を摘んでくれたアプコの気持ちが見えるように。 そのことを、スケッチと言う目に見える形に表現して残すことのできる父さんをうらやましく思う。 だから今日、私は花のないツユクサのことをここに記す。
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