月の輪通信 日々の想い
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2006年07月22日(土) 胃袋でつながる

夏休みに入ったけれど、オニイは夏期講習だの文化祭の練習だの部活だので毎日学校へ行く。
朝、普段とおんなじ時間にでかけていって、早ければ昼過ぎ、遅ければ夕方まで帰ってこない。
本来なら学校が閉まっている休みの日にも、部活だの友達との付き合いだの、自転車をすっとばして出かけていく。
「明日はお昼、どうするの?お弁当は?」
夏休み中の家族の昼ごはんつくりにぶうぶう文句を垂れてるくせに、いつまでもオニイの世話を焼きたい母は毎日毎日オニイに尋ねる。
「いらね。食べられる時間ないかもしんないから。」
お弁当より「昼ごはん代」って500円玉一個もらえるほうが有難いお年頃なんだろう。
「あ、そ。じゃ、らくちんでいいや」といいつつ、世話焼きの機会を失って母、ちょっとしょげる。

「あっじー!参った。はらへった!」
と、オニイがアブラギッシュな顔で帰ってくる。冷蔵庫を物色するオニイの背中からは湯気が揚がっているみたい。
起伏の多い坂道を40分かけて自転車で帰ってくるのだ。
オニイの汗の匂いは、最近大人の男の人の匂いになった。
「お昼のチャーハン残ってるよ!」とか「カレーパン、買っておいたよ!」とか、母はここぞとばかりに用意しておいた虫養いの軽食をすすめる。
「あ、チャーハンか。いいや、とりあえず水分補給。」とオニイはガブガブとお茶ばかり飲む。
「わ、うまそう!」とがつがつ食べてくれるのを期待していた母は、またちょっと拗ねる。

「なんかこう、一口で甘くて癒されるモノ、ないかなぁ」
とオニイが台所へやってくる。
待ってましたとばかり、冷蔵庫の一番上の棚に隠し持っていた上等のチョコレートの箱を出してくる。金色の宝石箱のような入れ物に入ったとりどりのチョコレートをむしゃむしゃ食べてオニイ、とろける顔になる。
「うんまいなぁ。天国やわぁ。」
普段無愛想な息子が至福の笑みを浮かべると、自分で買ってきたチョコレートってわけでもないのに、「どうだ、参ったか。」と母、自慢の鼻がピクピクと伸びてくる。

幸せな結婚生活を継続させるためには「男の胃袋を掴んだ者が勝ち」とかいうと聞く。
それは親子の間でも同じこと。
あほやなぁと思いつつ、スーパーでふと手が伸びるのはオニイの好きなスナック菓子。父さんの好きな焼肉の缶詰。ゲンの好きなスイカやメロン、女の子たちの好きな芋ケンピ。家族の関心を引き戻したいとき、ついついその人の好物を買い物籠に入れてしまう馬鹿な女。
最終的には、母は息子の食欲を満たすことで、わが子への愛を語るしかないのかしらん。

昨日(21日)のこと。
実家の母から新ショウガとしいたけを甘辛く煮詰めた佃煮が届いた。
母にしてはちょっと濃い目の味付けが暖かいご飯には絶妙の相性で、近頃お疲れ気味の我が家の食卓には欠かせない味となった。
遠く離れてすむ母には、娘の倦怠が通ずるのだろうか。
胃袋を通じる母との絆に、ちょっとうれしくなったりする。


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