月の輪通信 日々の想い
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2006年06月25日(日) 嫁入り先

父さん、心斎橋大丸で展示会会期中。
茶釜、蒔絵、木工、組紐などの先生方との5人展。
ジャンルも作暦も違う先生方との合同展は何かと気の張ることも多いようだけれど、会場に来てくださるお客様の中には、思いがけないご縁で繋がっている方がいらしたりして、色々と触発されることも多いようだ。
昨日はアユコとオニイが会場を訪れた。
今日は、朝剣道の送迎を終えてから、私が会場を見に出かけた。
いつもの展示会とは違って、陶芸以外のいろいろな種類の工芸の作品を一度にみせていただいて新鮮な刺激を受けた。

昼食は百貨店を出て、にぎやかな飲食店街で久々の外食。
父さんが前からぜひ一緒に行きたかったという老舗のうどん屋さんを目指す。その店は久中座のとなりの「今井」。かつては亡き藤山寛美さんも贔屓にしていた店だという。
2002年の中座の火事の際に延焼の被害を蒙って、店舗の上階が焼け、秘伝の秘伝の料理分量帳も焼失したと聞く。
実は十年ほど前からこのお店の店内に父さんの作品が飾られていることを人づてに聞いていて、父さん自身も何度かそのお店に「偵察」に出かけたりしていた。大きな一抱えもある山並の花器で、季節の花を模した造花がふんだんに活けてあったという。
中座の火事の一報を聞いたとき、父さんが真っ先に気になったのは、その自作の花器のことだった。いつも店内に飾られていたという。果たして焼けずに持ち出してもらえたのだろうか。
翌年、営業を再開されたと言うことはニュースで聞いたが、再びその店を訪れることなく数年が過ぎた。

陶芸家がいったんお客様の手に渡り、時間の経った作品の行く末を耳にしたり、自分の作品が飾られている現場を訪れたりする機会は意外と少ない。
精魂込めて作り出した作品もひとたびお客様の手に渡ると、木箱に入れたまま大事にお蔵にしまわれているのか、いつも人の目に触れて愛しんでいただける所にかざっていただけているのか、はたまた破損したり持ち主を失ったりして不遇の余生を送っているのか、確かめるすべはない。
まさに大事に育てた愛娘を連絡も取れない遠い異国に嫁にやる親の心境。
それだけに、火事で焼け出されたという悲運な所在を追う事のできた「山並花器」の消息が格別気になっていたのだろう。

お昼時の活気のあるその店内に入ると、
「あった!」
奥行きのある細長い店内の中ほどにの小さな飾り台の真ん中に、父さんの作った花器は確かに飾られていた。
色とりどりの紫陽花の造花をたっぷりと活けられて。
「よかったなぁ、助け出してもらえて。」
「まだ、いい場所に飾っていただけているんやなぁ。」
嫁入り先で不遇の災難にあった愛娘の穏やかな「現在」にほっとする父さん。
頂いたきつねうどんのちょっと甘口のおだしの味が、ひときわ美味しく暖かく感じられた。


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