月の輪通信 日々の想い
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朝剣道。 高校の剣道部に入部を決めたオニイは、これまで通っていた道場の先生方に退会の挨拶に行く。すでに防具類を学校の部室に預けてきたので、今日はもう、稽古にも参加しない。 オニイの道場卒業の日は、あっけなくやってきた。
小学生の半ばでこの道場に編入させてもらって、6,7年になるだろうか。 入ったばかりの時にはまだ面の紐を締めるのもうまく出来なくて、「家で一日一回ずつ面付けの練習をするように」と叱られたりしたものだった。 月例会でなかなか思うようにライバルに勝てず、悔しかったこと。 一番怖かったT先生が、急逝なさって愕然としたこと。 入門のときからお世話になっていた老剣士K先生が引退なさって寂しかったこと。 唯一の剣友、癒し系Tくんとのほのぼのとした友情。 あれこれ思うこともあったのだろう。 道場へ向かう車の中、オニイはいつもより無口だった。
子どもたちの稽古が終わって後片付けをなさっている先生方のところへ進んでいって、オニイはぴょこりと頭を下げる。二言三言、言葉を掛けていただいて、オニイは何度も頭を下げて帰ってきた。 あっけないお別れの挨拶。 先生方とはこれからだって、他の道場や試合の会場などでお会いすることがないわけではない。いつか再びこの道場で剣道をやらせていただく日もあるかもしれない。 一応の一区切り。 オニイや先生方、剣士たちにとっては道場卒業はそれだけのしばしの別れだったのかもしれない。
帰りに、ゲンとオニイを引き連れてスーパーで昼ごはんの買い物。 毎回定例になっていたこの買い物も次回からはゲンと二人連れ。 汗臭い稽古着姿の男の子を二人、用心棒のように引き連れて食料品売り場を歩き回る、密かな母の楽しみもおしまいになる。 軽自動車に汗臭い男の子たちを積み込んでの送り迎えも、ゲン一人となるとぐっと静かになるだろう。 週2回、いつまでも永遠に続くかのように思われていた剣道の送り迎えも、いつか終わりになるときが来るのだということが、改めて胸に響く。 なんだか寂しい。母の方が・・・。
子どもたちは成長して、あっけなく手の内から飛び去っていく。 前だけをむいて、振り返りもせず羽ばたいていく子どもたち。 からになった巣を見回して感傷にふけるのは、母だけなのかもしれない。
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