月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
ソメイヨシノが散り急ぎ始めたかと思うと、駅から工房への道のあちこちにやまつつじの濃いピンクがにぎやかになってきた。 駅前のMさんちの八重桜も工房の入り口の交野桜も開花はこれから。 学校帰りのアプコが校帽を空に受けて、はらはらと落ちてくる桜の花びらをキャッチして笑っている。 一度道路に落ちた花びらは、あまりに薄くて繊細でどんなに気をつけて拾ってもすぐに傷つけて醜くなってしまうから。 「おかあさん、これ、どうしたらずーっときれいなまんまでもっていられるんだろ?」 そっとハンカチに包んでも、コップの水に浮かべても、散った桜のはかなさをずっと手元にとどめておくことは出来ない。 そのことはちゃんと判っているくせに、何度も何度も散り急ぐ桜を追いかけるアプコ。 その幼い姿の愛しさは、どうしたらいつまでもとどめておくことが出来るのだろう。
「おかあさん、あのね、すごくかっこいい先生がおるねんで。」 二人で歩く帰り道、アプコが楽しそうに話してくれた。今度新しく来られた若い先生の中にとても素敵な男の先生がいらっしゃるのだそうだ。 「あのね、サッカーがとっても上手でね、サッカーの人(選手?)みたいな服着てるの。」 「ふうん、何年生の先生?」 「わかんない。」 「名前は?」 「しらない。」 「若い先生?」 「うん、たぶん。」
はなはだ頼りないお返事なのだけれど、アプコのちょっと無邪気なワクワクぶりがかわいくて、続けていろいろ聞いてみる。 「髪型は?」 「うんとね、つるつるじゃない坊主頭」 「???短いの?」 「うん、そんでサッカーの人みたいにしましまの服着てるの。」 「あ、ユニホームみたいなやつね。背は高いの?」 「うん、でも遠くで見たからよくわからん」 「アプコはサッカー選手みたいなスポーツマンが好きなのね。で、その先生のどこがかっこいいと思うの?」 「顔とサッカーの服。」 ・・・・・アプコはイケメン好みらしい。
「K先生とその先生、どっちがかっこいい?」 「じゃあさ、T先生とだったら?」 アプコのしっているほかの男の先生の名前を次々挙げて、その先生とどっちがかっこいいか聞いてみたけれど、アプコの好みは断然サッカーの服の先生に軍配を上げる。 だんだん愉快になってきて、アプコをからかう。 「そっか、そんなにかっこいい先生なら、今度参観の時にでもしっかり見てこなくっちゃ。アプコ、握手してもらってきたら?」 「あかん、あかん。見るだけでいいの。」 「じゃ、サイン、もらってきてあげようか?」 「ダメ!恥ずかしいから絶対ダメ!」 必死に答えるアプコの純情がかわいい。
「ねぇ、これは最後の質問。ゲン兄ちゃんとその先生、どっちがかっこいい?」 ・・・・・しばしの沈黙の後のアプコの返事。 「ゲン兄ちゃん」
これって、どうなの? ゲン兄さん、喜んでいいのか。 それとも、新人先生のイケメン度はたいしたことないのか。 それともアプコのイケメン尺度が微妙なのか。 とりあえず今度、ゲンにしましまのラガーシャツを着せてやろうと思う親ばかな母であった。
|