月の輪通信 日々の想い
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父さんの仕事場、いよいよ風雲急を告げる。 最後の最後まで粘って、吹き付けの釉薬がけ。 一番よく使う透明釉がとうとう底をついて作り置き用の大きなバケツの底をさらって漉し器で漉し、とりあえずの用を足す。 徹夜続きの父さんの顔や髪は、細かい埃や釉薬の塵で汚れ、うっすらと霧がかかったように煤けている。男前がだいなしだぁ。
家の前の道路に座り込んで、ゲンがなんだかぶつくさ独り言を言いながら作業をしている。ゴム動力のグライダーのゴムの部分に絡まった凧糸を苦心して解いているのだ。 「ありゃりゃ、派手に絡まったねぇ。凧糸、切ったほうがいいんじゃない?」 「うん、でもな、途中で切るのももったいないし・・・」 あ、そっか。ゲンも絡まった毛糸は最後まで切らずに根気よく解いていきたいタイプだったのね、アタシと一緒。で、親子で地べたに座り込んで絡まった糸を少しづつ根気よくとき始めた。 「・・・で、なんでグライダーに凧糸なんかが絡まったの?」 「あのな、ごっつうええこと思いついたと思ったんやけどナ・・・」 ああ、みなまで言うな。この間からしょっちゅう自慢の愛機を飛ばしては、近所の木の枝や屋根の上に引っかかって何度も苦心惨憺していたゲン。あれこれ考えて凧糸をつけて飛ばせば、引っかかっても糸を引っ張って落とすことが出来ると考えたのだろう。 ところが残念。木に引っかかるほど跳ぶ前にキリキリ巻いたプロペラのゴムに糸を巻き込んでしまい、この有様。
「あはは、ちょっと考えが浅はかやったなぁ。第一、糸つけたまま木に引っかかったら、下からひっぱっても突っついても落ちてこないじゃん。」 「あ、そっか。考えてみたらそうやなぁ。」 「よかったなぁ、木に引っかかる前に気がついて・・・。」 「それもそうや。」
いいこと、考えた!と思ったら、躊躇せずさっさと試してみる。 あとさき省みずにとりあえず飛びついてみる。 うまくいったら、大喜び。失敗して凹んでもくさらずに敗因を分析してあっさりと負けを認める。 天真爛漫のチャレンジャーぶりが我が家の次男坊の愉快なところ。
苦心の末、凧糸の金縛りから救出したグライダーを恐る恐る、でも嬉しげに宙に投げる。 ふわりと風に乗り、気持ちよく滑空する雄姿はやっぱり命綱を持たない自由さがいい。
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