月の輪通信 日々の想い
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「ぼく、ぼく!」 受話器をとると、オニイの声。 「誰よ」 「僕、僕!ボクボク詐欺やで!」と笑っている。 「自分で『詐欺やで』と名乗るヤツはおらん。」 「それもそやな。あ、面接、今終わった。これから帰ります。」 やけに緊張して第一志望の高校の面接試験に出かけていったオニイ。 試験が終わってよほどほっとしたのだろう。いつも無愛想なオニイの電話の声が今日は妙に弾んでいて、くだらないジョークを飛ばして自分でへらへら笑っている。 中学の先生の話し振りではほぼ間違いなく安全圏という志望校だけれど、それにしてもオニイにとっては先の見えない「一世一代」の入学試験だったのだろう。 とりあえず、無事試験を終えられてよかった。 お疲れさん。 発表は来週木曜日。
実を言うと今回の受験で私が心配していたのは、偏差値や内申点でも試験の成績でもなく、オニイの試験当日の体調だけだった。 昨年春の不登校騒ぎの後も、すっかり元気になったとはいえ、定期テストや個人懇談の前日など、ちょっとしたストレスの前にはなんとなく調子がわるくなる事もあるオニイ。「ゆうべ、なんか変なもの、喰ったかな?」なんて紛らせてはいるものの、まだ時々「過敏性なんとか」の傾向は残っているようだ。もしかして大事な受験の日の朝に何かあったらという僅かな不安が、オニイにプレッシャーや期待をかけることを躊躇わせていたような気がする。 幸い、今回は私学と公立2回の試験の日にもこれといった体調の変化も無く、無事に試験を終えた。多分これからはオニイのことをもっと手放しで大らかに見守っていくことが出来るようになるだろう。 よかった。
「おかあさ〜ん、見てみて!」 アプコがピンクのキティちゃん自転車で私を追い越していき、道幅の広くなったところでクルリとUターンして見せた。 先週、ようやく補助輪なしの自転車の乗れるようになったアプコ。 つい昨日まではカーブを曲がることも出来なくて、直線コース限定で家の前の道路を往復するばかりだったのに、今日はもうオートバイのレーサーのように車体を傾けてザザッとかっこよくUターンが出来るようになっている。 一日一日新しいことが出来るようになる、自転車乗り始めの嬉しい気持ちがあふれんばかりの笑顔に見て取れる。 生まれて初めて寝返りが出来た日。 生まれて初めて歩いた日。 あのときにもきっと、こんな笑顔でいたのだろうなぁ。
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