月の輪通信 日々の想い
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2006年02月10日(金) 試される

オニイ、私学入試。
英語、国語にデッサンの実技。
朝早くから弁当を作って送り出す。
実技に使う大きなカルトン(画板)を抱えて、緊張した面持ちで駅へと歩き出すオニイ。
彼にとっては今回の入試が、誰かから「試される」初めての経験。
こうやってまた一つ階段を上っていくんだな。
頑張って行ってこい。
今日はとりあえず前哨戦だ。

午後から、アユコの学校の百人一首大会参観。
PTAから生徒たちに豚汁の炊き出しを行うというのでエプロン、カセットコンロ持参で手伝いに出かけた。
調理室で大小15個のお鍋にたっぷりの豚汁を煮る。材料をダンダンと刻んでワッシャワッシャと鍋に投げ込み、ぐつぐつと煮こむ。
一度にたくさんの調理をしたり、台車でバケツのようなお鍋を運んだりするのは、なんとなく給食のおばさんになったようでワクワクと楽しい。
若い中学生たちの食欲は旺盛で、大きなお鍋がたちまち空になっていくのも気持ちがいい。

豚汁つくりの合間に久しぶりにNさんとおしゃべり。
Nさんは地元の神社の宮司さんの奥さんで、アユコとそこの長男は幼稚園の頃からの同級生。
Nさんのお宅は人里はなれた山の谷あいの古い神社で子どもたちの小中学校への登下校は今でもNさんが毎日車で送り迎えしているという。
「いつまでたっても、私たちは子どもの送り迎えばかりに時間を費やす人生ねぇ。」と同じ僻地に住む者同士、相憐れむ。
代々続く家業を受け継ぐ跡継ぎを育てなければならない境遇もよく似ていて、たまにおしゃべりする機会があるとついつい話が盛り上がる。
今日はオニイの入試の話から始まって、子どもたちの進路の話題になった。
Nさんの長男は、小学校の卒業文集で「将来はお父さんの後をついで神主になる」としっかり跡継ぎ宣言をしておられた。それはそれでとても頼もしいことだけれど、Nさんは「いつかは子どもたちの誰かが継いでくれないと困ることは確かだけれど、ほんとは子どもたちには自分の好きなことをさせてやりたいとも思う」という。
「家業を継ぐ」というと、「将来、就職の心配がなくていいわね」とか「跡継ぎがいて安心ね。」とか、周りからはいいように言われるけれども、これはこれで親も子も悩みは多い。
学校での進路指導でも、上の学校に行って普通に就職する方法は教えてくれるけれど、特殊な進路を選ぶためには親があれこれ情報を集めて決断していかなければならないことも多くなる。
「こういう家業の家の子育てって、結構むずかしいわよねぇ。」
うんうん、わかるわかるとしきりに頷く。

「ま、とりあえず、家の中になんだかんだ仕事はあるから、外で就職できなくてもニートになる心配だけはないのよね。」といいつつ、
「でも、『引き篭もり』はまだ可能性としては無くはないけどね」
と、大らかに笑う。
大丈夫。
子どもたちは毎日の送り迎えの苦労や親たちの働く姿をしっかり見ながら成長している。きっと親の想いを汲み取って、しっかり大人になってくれるよ。

で、肝心の百人一首大会。
会場では、アユコは壇上に上がって、合図の太鼓を叩く係や読み札の「読み手」を務めていた。幼い頃「人前で話すのは苦手」とはにかんでいたアユコが堂々と役目を果たす。
キンと冷えた体育館の静かさの中に、アユコの札を読む声が朗々と響く。家では百人一首などほとんどやったことが無いのに、あの独特の節回しをいったいいつどこで学んだのだろう。
「お宅のアユちゃんは、しっかりしてるわねぇ。」と名前も知らないよそのお母さんから声をかけられた。
「いえいえ、外面がいいだけですよ」
とはぐらかしながらもちょっと嬉しかったりする。
親ばか、親ばか・・・。


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