月の輪通信 日々の想い
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雨も上がって、暖かい日。 朝から、ここ数日室内に干していた洗濯物をガンガン外に出し、キッチンマットやコタツ敷きカバーもお洗濯。 泥んこ運動靴と6人分の傘もベランダに並べて日に当てる。 久々の陽光が嬉しい、主婦の朝。
夕方、ゲンが嬉しそうに帰ってきた。 「おかあさん!上がってきたで!」 「なになに?なんのこと?」 「ほらほら、Nさんのおうちの・・・」 ゲンがニヤニヤ笑いながら、もったいぶってご報告。
下校途中のNさんのおうちは急勾配の山の斜面に張り付くように建てられている。その斜面にはNさんの先住者が作った手作りの櫓(?)があり、はしごや階段を組み合わせた足場もそびえている。そのつぎはぎの足場や展望台のような小屋の姿は、ゲンたちの学校のグラウンドからもよく見えていて、まるで宮崎アニメの楼閣を思わせるような異様な建造物が以前からなんとも気になる存在だった。 お休みの日などには、Nさんがそのそそり立つような斜面に上り、手動式のリフトでブロックや土嚢を運び上げたり、見上げるほどの高さのところから切り払った枝や古い枯れ木を降ろしたりして作業しておられる姿をお見かけする。下から見上げている分には、何を作ろうとしておられるのか、どんな作業をしておられるのかとか細かい所はよくわからないのだけれど、なんだかとても楽しげに立ち働いておられるのだ。 「あの上には何があるんだろう。」 「あそこまで上がったら、どんな景色が見えるんだろう」 と、子どもたちは興味津々。 登下校の途中などにはわざわざ立ち止まって斜面を振り仰いだりしていた。 先日、ちょうど通りかかったときにNさんにお会いして 「ずいぶんご精が出ますね。なんだかとっても楽しそう。うちの子達も興味津々で見せてもらってますよ。」とお話したら、思いがけず、 「いつでも遊びにいらっしゃい、上がらせてあげますよ。」と快くおっしゃってくださった。 それで、ちょうど今日、下校途中に通りかかったゲンを呼び止めて上がらせてくださったのだろう。
「すっごいねんで、いっぱい階段とか道とかがあってな、ぜ〜んぶおじさんたちが自分らで作ったんやって。 階段も途中で分かれ道になってたりしてな、すっごいねん。ぼく、途中で道にまよいそうになったわ。 それでな、荷物を運ぶためのリフトが上までつながっててな、それもおじさんらが作ったんやって。 上まで上がったら、学校のグラウンドも見えたわ。」 ちょっと興奮した口ぶりで語るゲン。 長年気にかかっていたNさんの空中庭園にあがらせていただいて、ワクワクする気持ちが抑えられないようだ。 「クヌギの木とかあるみたいやから、夏になったらクワガタムシとか、おるかもしれんなぁ。また行きたいなぁ。」 山歩きや昆虫、大工仕事や土いじりが大好きなゲン。きっと夢中になるだろうと思ったら案の定。気前よく秘密基地の扉を開けて、手招きしてくださったNさんのお人柄にも惹かれるところがあるのだろう。 ゲンの興奮したおしゃべりは夜まで続いた。
「ところで、おかあさん。実はぼくも今度、Mくんと秘密基地作る約束してるねん。」 あらあら、君もですか。 男の子っていくつになっても「秘密基地」とか「隠れ家」とかって言葉に弱いですねぇ。 「そんなの、どこに作るの?」 「え?学校の近くの川んとこ」 「ふ〜ん、そんなもの作れそうな場所、あるの?」 「うん、あのな、竹やぶのそばのな・・・」 と話しかけてふと気がついたゲン。 「・・・て、全部しゃべったら、全然秘密とちゃうやん。」 と笑う。 「あら、ほんと。でも、秘密基地ってホントは誰かに見せたかったり、しゃべりたかったりするもんよね。」 「うん。ホントはね。・・・きっとな、今日のNさんもな、自分の秘密基地、ちょっと自慢したかったんちゃうかなと思う。」 Nさんの本格的な土木作業と小学生の秘密基地作りを一緒にするのもどうかと思うけど、確かにその楽しげなワクワク感には共通するものがある。
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