月の輪通信 日々の想い
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朝、男の子たちは剣道の稽古。 アプコとアユコは父さんと一緒に、工房中の注連飾りを集めて近所の神社の「とんど」へ持っていく。 そのあと、同じ神社の会館でアユコとゲンは笛の初稽古。 剣道の稽古を終えたゲンは車の中で剣道着を着替えて、そのまま笛の稽古に合流。 大忙しの朝。
午後は工房の初釜。 教室の生徒さんたちが10人余り、自作のお茶道具を持ち寄って工房のお茶室でお茶会をなさる。 家族総出でお茶室周りの落ち葉掻きをしてお茶室の設えを整え、点心席のテーブルを配置して、お湯呑や酒器の準備をする。 庭掃除ではゲンが、お茶室の半頭にはアユコが、点心席の配膳と福引のお手伝いにはアプコが大活躍で手伝ってくれた。 ことにアプコは前日おじいちゃんに買ってもらったピンクのおニューのエプロンが嬉しくて、緊張した面持ちでお盆を運ぶ。
思えばアユコも、ちょうど今のアプコと同じくらいの年齢の頃に、工房でのお茶会や手づくね教室のお客様の配膳やお茶出しの手伝いをやらせてもらうようになった。今のアプコよりずっと人見知りが激しくて、人前では緊張のあまり泣きべそをかいていたアユコが、今では胸を張って手馴れた様子でてきぱきと走り回り、お接待の重要戦力となった。。 幼い時にはただ大人の邪魔をしないように家でおとなしくお留守番をしていることが一番の「お手伝い」だった子どもたちが、大きくなってようやく役に立つ手伝い手に成長してきた。ありがたい。
「そろそろ、アプコも仕込んでいかなくっちゃね。」 と、今日はアユコが熱心にアプコの指導役に回った。 「お盆はしっかり両手で持って、無理して一度にたくさん運ばないこと。」 「お客様のお箸は、お手拭と並べて右側においてね。松花堂のお膳はご飯が手前に来るようにおくこと」 「大きい急須を持つときには、重いから左手を添えてね。」 昔、私が教えたことを、一つ一つ懇切丁寧に説明するアユコ。危なっかしいところはさりげなく補助しながら、アプコを表に立たせて見守るお姉さん振りが頼もしい。 アユコの期待に応えようと張り切って働くアプコの素直さも嬉しくて、女の子兄弟って言うのもいいものだなと思う。
「よく働いてくれました。」 お客様を送り出したあと、叔父ちゃんやおばあちゃんにお褒めの言葉をいただいて、ご褒美にとお膳の余分とお客様のお持たせの大粒のイチゴをいただいてきた。 そうそう。 昔、アユコもお客様のお接待の手伝いをして、ご褒美にと季節外れの宝石のような大粒イチゴをいただいたことがあったっけ。つややかな果実の輝きが、お手伝いを無事に務めて誇らしげなアユコへの勲章のようで、ほのぼのと嬉しかったのを思い出す。 今日のアプコの胸にも、いちごの勲章が輝いているのだろうか。
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