月の輪通信 日々の想い
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朝、7時には子どもたちを起こす。 階段の下から大きな声で「おーい!7時だよ!起きろー!」と叫ぶ。 続いて上から順番に子どもらの名前を呼ぶ。 寝ぼけ半分の頼りない返事やお布団の中からのくぐもった声の返事が返ってくる。 寒くなると、朝の子どもたちの目覚めは格段に悪くなる。暖かいお布団のぬくもりを去りがたくて、いつまでも寝床を離れられないでいる。
いつまでも子どもたちがおきてくる気配がないと 「おーい!ちゃんと起きてるー?お母さんの一番かわいい子どもは、一番に顔、見せて!」 と呼ぶ。 ごそごそと誰かが這い出てくる気配がして、大概はゲンかアプコが階段の上の踊り場に顔を出す。 アプコはピョコンと跳ねるように。 ゲンはぬーっと照れくさそうに。 さすがにオニイとアユコは、そんな母のくすぐりに乗ってくれる年齢は卒業してしまったらしい。
我が家で一番寝起きが悪いのはアユコだろうか。 朝起きて即ハイテンションに動き出すことのできるゲンなどと比べると、アユコは着替えを済ませて台所へ降りてくる時間になってもなんとなく寝ぼけ眼でご機嫌が悪い。 母や弟妹に何度もしつこく起こされるのに朝の支度がなかなか片付かない自分に苛立って、いつも遅れて食卓につく。家族の些細な言動が癇に障って、イライラしたり怒ったり。 朝のアユコは扱いにくい。 目覚めてもなかなか体のエンジンがかかり難い「スロースターター」は父さん譲り。
朝からそんな鬱陶しい顔しないでよ。 目覚まし時計、ずいぶん朝早くから鳴りっぱなしだったよ。 朝が苦手はわかるけど、だからってそのイライラをアプコやゲンに投げないで。 いやだなぁと思いつつ、今日も朝からお説教。 唇をへの字に曲げてうなづくアユコ。 本当は自分でもよくわかってるんだ。 朝の忙しい時間にまとわり付くアプコや得意げに早起きを自慢するゲンのことが癪に障るのは、自分自身のお寝坊が許せないから。
「行ってきます。」 ふくれた顔のまま、玄関を出たアユコを追って外へ出る。 通学の自転車を引っ張り出しながら、ふっと顔を上げたアユコの頬にポロリと涙。 「馬鹿だなぁ。中学生にもなって、朝寝坊で泣く事ないのに。」 セーターの袖口でアユコの頬をぬぐって、 「ほら、目覚まし。」とアユコの口にチョコレートをひとかけら。
行きがけのささやかな甘いチョコの一片で、膨れっ面が見る間に泣き笑いに変わるアユコの幼さ。
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