月の輪通信 日々の想い
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明日から地元の百貨店での展示会がはじまる。 年末からお正月休みも返上で焼き上げた作品の搬入準備。 荷造りの合間に展示室のたなのそばを通りかかると、静かに冷え切った空気の中でピキピキとささやくような音がする。 窯から出たばかりの作品が外気に冷やされて、その表面に細かい貫入の入る音だ。いわば焼き物の産声とも言えるようなささやかな音に心躍る思いで耳を澄ます。 今日窯から出たのは、お抹茶茶わんや小さな香合。そのまま梱包して明日の展示会に出品する作品だ。手の中に収めるとまだわずかに窯の火の温みを残して、ほのぼのと暖かい。
仕事場では父さんがまだ、明日の朝滑り込みで持ち込む予定の作品の窯詰めをしている。開場時間には間に合わないけれど、手持ちで持ち込んで途中から展示するつもりなのだ。本当に最後の最後まで引っ張るなぁ。 けれども、「あと一点・・・」「もう一点・・・」という粘り強い繰り返しが、父さんの仕事の原動力。 綱渡りのような夜なべ仕事の連続も展覧会前のイライラ、ピリピリもすべて作品の中に注がれて色彩と形に姿を変える。 今年も毎月のように各地での展示会の予定が組まれた。そのたびに父さんの修羅場のような夜なべ仕事が続く。 願わくば、健やかに充実した制作の日々が送れますように。 祈る気持ちで貫入の音を聴く。
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