月の輪通信 日々の想い
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「元旦には窯に火は入れない」 永らく守られていた定めを破って、今年、父さんは元日の朝から窯を焼いた。 年明けに持ち越された干支のお茶碗と6日からの地元の百貨店の展示会への出品作品。例年通りの年末仕事に年頭早々の展示会が重なって、毎日のように徹夜仕事が続いてもまだまだ山積みされた仕事は終わらない。 釉薬のしみだらけの仕事着姿でアルコール抜きの御節を祝う。 これが今年の我が家のお正月。
父さんと受験生のオニイを残して、下の3人の子どもたちと電車で加古川へ里帰り。 東京と大阪の弟たち家族もそろって、普段静かな実家に子どもたちのにぎやかな声が満ちた。アプコは久しぶりに会う小さい従妹達相手に得意のお姉さんぶりっ子。かわいいおしゃべりの始まったYちゃんがパタパタ駆け回って愛嬌を振りまく。幼稚園児のAちゃんの歯切れのいい東京言葉があっという間に感染して、変な標準語をしゃべっているアプコが可笑しい。
実家のお正月料理も最近ではずいぶん簡略化した。 今年はお重箱も出ていなくて、大皿に母のお煮しめを盛り合わせての簡易版。恒例のお餅つきもお休みで、それぞれが持ち寄ったお土産が食卓に上った。 そんな中でも母は棒鱈だけは、今年も忘れず用意しておいてくれた。年末から何度もぬるま湯を入れ替えて漬けておいたと言う乾鱈を、甘辛く煮る。しっかりした歯ごたえを残したままホロホロと崩れるように煮た母の棒だらは子どもの頃から私の大好物。下準備に手間のかかるこの料理を母は毎年「お姉ちゃんのために」と格別に用意してくれているらしい。 父母の下を離れて嫁いで16年。いっぱしの母の顔をして年齢を重ねた私が、年に一度、誰かの娘に戻ることの出来る嬉しい一皿。ジワジワと惜しむように噛み締める。 有難いこと。
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